■書名:ヘルプマン!! ~介護蘇生編
■著者:くさか里樹
■発行:朝日新聞出版
■出版年:2015年5月
>>『ヘルプマン!!介護蘇生編』の購入はこちら
介護する家族や本人、ヘルパーたちの実態をリアルに描く

『ヘルプマン!!~介護蘇生編』より (画像クリックで拡大)
主人公の百太郎は、高齢者の本当の幸せを考え、常識も飛び越えて行動するヘルパー。突っ走り過ぎて、上司や同僚に嫌われたりクビになったりして、生活にも困るのだけれど、「高齢者を幸せにしたい!」という情熱は常に沸騰状態だ。
講談社のイブニングに連載された作品は、単行本としてまとめられ、27巻を数えた。認知症、介護保険、行政の介入、成年後見人……。介護関連の情報や知識も詰め込まれたストーリーは、読むだけで介護の知識がどんどん入ってくる。楽しみながら、感動しながら介護について勉強できるから、介護する家族にとってもバイブルのような存在だ。
その『ヘルプマン!』が、講談社での連載を終え、週刊朝日から続編として連載がスタート。単行本の第1巻『ヘルプマン!!~介護蘇生編』がこのたび刊行された。
テーマは、高齢者介護の終末期に誰もが悩む「胃ろう」。物語では、病院や老人ホームを転々とするうち弱りきったおじいちゃんに、なんとか口からご飯を食べさせて、元気を取り戻させたいと、またまた百太郎が大奮闘する。訴えられる寸前まで大暴れする彼を、クールダウンさせながら知識の面でもサポートするのは、幼馴染の仁。ケアマネで社会福祉士でもあり、本作では、介護情報を提供するNPOを運営している。
医療・介護関係者の中には、「口から食べられなくなったら胃ろう」「誤嚥性肺炎を防ぐには胃ろう」と考える人も多い。その一方で、「胃ろうは不毛な延命措置だ」という声もある。

『ヘルプマン!!』介護蘇生編より (画像クリックで拡大)
しかし、これはどちらも大きな誤解だそうだ。本作では、胃ろうと口からの食事は、併用することができることや、胃ろうにしたとしても誤嚥性肺炎になること、などが語られる。また、誤嚥性肺炎を防ぐには、むしろ口から食事をとったほうがいいのだ、ともいう。口から食べることで、のどの力をつけ、好きなものを食べることで生きる意欲を保つ。これが重要なのだ。
本作の中では、だれもが「無理!」だと思っていた大好物のカツ丼を口に含むや、ぼんやりしていたおじいちゃんに生気が戻ってくる。まるで魔法のよう! しかし、魔法ではない。作者のくさか里樹さんが実際に取材し、「あり得る」ことを確認したシーンなのだ。
主役の百太郎だけでなく、孫や古い友人が、おじいちゃんを思う気持ちにも共感する。そして、かたくなだった娘が変化してくシーンでは、思わず涙がホロリ――。
介護に疲れ、投げやりになりそうなこともあるかもしれない。「きれいごとばかりではすまない」こともあるだろう。けれど、奇跡が起こるのであれば、もうちょっと前向きに取り組めるかも!? そんな気持ちにもさせられる珠玉の1冊だ。
○●○ 著者ミニインタビュー○●○
イブニングでの連載時代から変わらないのは、「普通の人を描く」というテーマです。特別なヒーローではないヘルパーの百太郎を中心に、おじいちゃんおばあちゃん、そして介護する家族を描くことで、みなさんの介護応援団になりたいと思って描いてきました。
今回、週刊朝日に連載を移してからは、読者層が中高年になりました。親の介護やご自身の今後は、読者にとって身近な話題なので、よりリアルに感じてもらえると思います。またテーマも深く掘り下げた内容にしていきたいですね。
今回の『胃ろう』のテーマも、高齢者介護の大きな問題になっているので、以前から描きたい題材でした。
けれど、その一方で、百太郎と高齢者一人ひとりの絆のつくり方などに焦点を当てて、じっくり表現していきたいな、という思いがありました。今回も、百太郎がまるで魔法のように、高齢者の心をつかみ、劇的に変えていきました。不器用で損ばかりしている彼が、情熱と技術で、おじいちゃんの心をつかむ。そんな奇跡の中に、介護のすばらしさが詰まっているのを、みなさんにお知らせしたいと思ったのです。
物語の中で、介護する家族は疲れ、苦しんでいます。でも、心を開き、ヘルプマンたち(ヘルパーやケアマネなど介護のプロたち)と連携し、情報交換していけば、助けてもらえる、そして何かが変わる可能性もある。
だから、みなさんも抱え込まないで、周囲の力をうまく借りながら、介護を続けていっていただければいいな、と思います。
*くさか里樹さんの思う「良い老人ホーム」について、こちらのページで詳しくお伝えしています。
著者プロフィール
くさか里樹 (くさか・りき)さん 漫画家
1958年高知県生まれ。1980年『別冊少女コミック』(小学館)にて『ひとつちがいのさしすせそ』でデビュー。ほかに『ケイリン野郎』、『クマーラジーヴァ』などがある。2003年『イブニング』(講談社)にて『ヘルプマン!』連載開始。2011年5月同作品が第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞。2014年末、『週刊朝日』に発表の場を移し、『ヘルプマン!!』を連載開始。私生活では1982年漫画家・大石倉人さんと結婚、3児の母となり、現在は孫も5人。高知県在住。