「話すことであなたは年寄りを元気にしている」と100歳超えて現役の日野原医師も賞賛

■書名:毒蝮流! ことばで介護
■著者:毒蝮三太夫
■発行所:講談社
■発行日:2014年4月第1刷
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毒舌なのに、“ババアのアイドル”とは?!——その秘訣はどこに?
その名は毒蝮三太夫――ババア、ジジイと面と向かって呼ばれたらふつう喜ぶ人はいないものだが、この人の場合は特別。なにしろ、呼び名が「ババアのアイドル」。45年続いているラジオの長寿番組の収録で街に出るたび、そこは黒山(シルバーも混じってる?)の人だかり。開口一番、「おー、相変わらず、もうじき仏壇に入りそうなババアが揃ってるな」――なんて、ちょっと年季が入ったぐらいのパーソナリティにはとてもいえません!(笑)
“毒”がたっぷりはいったトークゆえに愛されるという、奇特な話芸が毒蝮さんの持ち味(そこに「こころがあるから」ということは、改めていうまでもないことですが)。そんな「ババアのアイドル」ぶりが評判を呼んで、本業以外の“畑”からも声がかかるようになったのが介護畑と出会うきっかけ。介護をテーマにした講演、シンポジウムと引っ張り出されるうちに、とうとう、大学の福祉学科からも客員教授としてぜひ!の声があがる……しかし、困ったのが毒蝮さん。
ホラは吹けてもウソはつけない下町気質。親を介護した経験があるわけでもない、介護の勉強を専門的にしたわけでもないオレでいいのかよ?と本気で困っていた毒蝮さんに、「あなたは話すことでお年寄りを喜ばせ、元気にしている、あなたこそ立派な名医なんですよ」とお墨付きをくれたのが、100歳を超えてなお現役を続けているあの日野原重明医師という(ありがたかったね、とは本人談)――そんなこんなを含めて、毒蝮流の介護の心得を本にしてみませんか、ということで出来たのが本書。(<買いかぶられるのは、困るんだ>といいながら、毒蝮さんの“愛がたっぷりの毒舌”はここでもサクレツしております!)
「ことばで介護」とはいっても、毒蝮流は「こういうときはこういう話を」というような決まりごととは無縁、<普段しゃべっている言葉がそのまま出てくるだけ>、といいながらも、そこは、毒舌風に相手を気遣う超一流の話芸――。
<病気の年寄りが現場にもよく来る。オレはそんな人たちのはけ口にもなっているから、いきなり、かますんだ。
「オレと握手して、そのまま倒れた人もいるよ」
失礼きわまりなくても、いいんだ。オレが言えば大丈夫なんだから。暗く沈んでたら、「もっと面白く生きちゃえよ。幸せは自分でつかむしかないよ」
オレの「得舌」は必ず人を元気づけられる。そこは信じているし、でなきゃMP(※筆者注/ラジオ番組)を45年も続けていられない。その上で、ときどき、「ま、このくらいでいいか」とネジがゆるむのを、「いや、まだまだ」と微調整しながらやってきたんだ。>
下町で生まれた毒蝮さんの子ども時代のことから、親友の故・立川談志からすすめられた改名時のエピソード、下町長屋流コミュニケーション術、大学教授・毒蝮流の介護の心得、下町流かまい合い介護——へと話題の連なりも小気味よく、読んでいると、初夏の夏空のようなカラリとした気分になってくるのが、本書最大の効用。毒蝮流はだれにでもできるわけではないけれど、「年寄りは人の役に立ちたいんだよ」「かまってほしいんだよ」等々、随所でさりげなく語られることばを心に留めておけば、介護で困ったときにきっと力になってくれるはず。
本書のもうひとつの読みどころは、豪放磊落を絵に描いたような毒蝮三太夫さんをして、<だからオレは、MPの現場に行ったら、死んだオヤジやオフクロに語りかけているような気になる>といわせる下町の気風あふれた家族の話。親がいて、自分がいる、だから介護ということもある、というあたりまえのことが、ふっと新鮮に思えてくる、懐かしい昭和の物語です。
<佐藤>
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著者プロフィール
毒蝮三太夫(どくまむし•さんだゆう)さん。1936年、品川生まれ。俳優、ラジオのパーソナリティ。1959年、日本大学芸術学部卒業。 俳優(最初は子役)としてのデビューは1948年、舞台『鐘のなる丘』。その後、映画作品やテレビドラマ『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などへ出演。テレビのお笑い番組『笑点』への出演中に、親友の故・立川談志から改名をすすめられ、本名の石井伊吉から毒蝮三太夫と芸名を改める。その後、ラジオのパーソナリティとしても活躍。担当するTBSラジオ『ミュージックプレゼント(MP)』は1969年から45年続く長寿番組。NHKの『介護百人一首』コーナーの司会、聖徳大学短期大学部では介護福祉学科の客員教授もつとめている