介護世代を応援する「日本一思い出を大事にする」整理術のすすめ!

■書名:片づかない! どうする我が家、親の家〜ミドル世代の暮らし替え整理術
■発行元:クラブハウス
■出版年:2013年 8月
■著者:杉之原富士子
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整理術はその人の暮らし方や価値観によって変わってくる
それぞれ工夫あり、一理ありとはいえ、どうしても隔靴掻痒(かっかそうよう)なところが残ってしまうのが「収納術、整理術」本の面映いところ。近年大ブームとなった「断捨離」本にしても、考え方にはなるほど!と共感しても、それだけで“片付け上手誕生”というわけにはいかない。人それぞれに個性的な事情や状況、環境がある中で、ぴたりとはまる整理術を見つけ出すところに最初のハードルが待っているのだろう。
良書がしのぎを削るこの分野で、きらりと光る本書の個性はといえば、まさにそうした視点が組み込まれていること。副題に織り込まれている「ミドル世代」と「暮し替え」という言葉が本書の読み解くキーワードであり、想定された読者でもある。「ミドル世代」とはもちろん、高齢になりつつある親を案ずる「介護世代」の別名でもある。
著者の杉之原さんは12年間主婦業に専念したあと、子どもの就学を機に、運送会社でアルバイトを始め、引っ越し営業や梱包の仕事を経験。一連の仕事の過程で、「片付け」という仕事に新しいニーズがあることを発見し、この分野のエキスパートになったという経歴の持ち主。ごく普通の主婦だった人が何かのきっかけで才能を発揮してビジネスでも成功する、という例は時々あるが、杉之原さんの場合は(本人の弁を信じるとすれば)ものの整理に関してはむしろ苦手だったというから、人生はうれしいことに予期せぬ出会いに満ちている。
そんな杉之原さんがあるとき発見した“新しいニーズ”というと——ひとつの例として紹介されているのが、「ゆっくり引っ越しをしたい」という新しいサービス。総勢10人で訪問したある引っ越し作業の際、依頼主である高齢の女性から出された要望は「ゆっくり引っ越しをしてほしい」という通常とは逆のこと。要望に沿って作業を進めてはみたものの、“時は金なり”を地でいく引っ越しのプロとしては「ゆっくり」ばかりもしていられず、ついつい手早い作業になってきたところに、依頼主からこんな言葉が……
<「そんなに早く、いる、いらないを分けられないですよ。捨てたモノや手放すモノについて後からこれでよかったのかしら?と不安になってしまうでしょ。だから、ゆっくり時間をかけて、考えながら片づけしたいのよ」>
そして、この言葉と出会った杉之原さんが考えたこと。
<思い出と向き合いながら、ゆっくりモノたちとお別れしたい。この過程を経ることが、ご高齢の方にとっては、モノとの別れの儀式やひとつの精神的な区切りになっていたのです。ただ早く運べばいい、というスピード引越とは全く価値観が違います。それならば、多くの作業員はいりません。前もって女性スタッフが2名で入り、仕分けしながら梱包をすすめ、丁寧にモノとの別れのお手伝いをさせていただこう……>
このエピソードからは杉之原さんの人間観、こころの器量も伝わってきて、「ものを片づける技術、整理術もその人の価値観によってそのあり方が変わってくる」ことをわたしたちは教えられる。これが本書ならではの爽やかな読後感にもつながっている。
<シニアが目指す部屋>として杉之原さんが挙げているチェックポイントをご紹介したい。
1.必要なものがすぐ出てくること
2.モノにつまづいて怪我をしないこと
3.使いきれる分だけ購入し、見てわかる収納にすること
4.すぐに取り出せる防災時の用意をすること
5.大切な思い出のものがいつもそばにあること
いわれてみれば納得のことばかり、とはいえ、「なるほど」と「出来ています」の間には大きな溝があることはみなさんご承知のとおり。とくに5の「大切な思い出」関係は案外、未整理なもの。でも、これが大事なんですよ、と杉之原さん。モノを捨てることも大事だけどモノを捨てるだけでは本当に幸せにはなれない、それは、そのモノには「昔、今、未来」があるからです、と。
<私たちは、日本一「思い出を大切にする」整理屋さんでありたいと思っています>
<佐藤>
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著者プロフィール
杉之原富士子(すぎのはら•ふじこ)。1957年、茨城県生まれ。東京家政大学家政学部卒業。12年間の専業主婦業を経て、運送会社に勤務。引っ越し営業の経験をもとに独自の引っ越し梱包サービスを発案、好評を得る。2011年、引っ越し梱包サービスを手がける自身の会社、㈱サマンサネットを設立。代表取締役。整理収納アドバイザー1級、遺品整理士。一般社団法人日本ホームステージング協会代表理事。