介護保険料を滞納している人はどれくらい?
2018年度に厚生労働省が行った「介護保険事務調査」によると、2017年度の1年間に介護保険料を滞納して資産を差押さえられた人の数が1万5998人に達したことがわかりました。
これは前年度と比較して1183人の増加、2013年度に調査を開始して以来最多の人数です。
滞納者に対する給付制限も1万3981人と過去最多、給付の一時差止めや減額処分となった人はそのうち1万1285人となっているのが、データ上明らかとなっています。
この滞納による資産の差押え処分の対象は、介護保険料を長期にわたって滞納しているなど、納付状況が相当悪質な人です。
しかしながら、年々こうした差押え処分にまで発展するケースは、数字上でも増大していることがわかります。その背景に見え隠れするのは、保険料が年々上がっていることや経済事情の厳しい人が増えているといった現実です。
介護保険料を滞納するとどうなるの?
介護保険料を滞納し続けると、自宅に委託業者が訪問するなどのほか、以下のようなペナルティがあります。
1年間の未納
最初の段階は1年間未納であった場合です。このケースでは、いったん介護サービスを受けた分の費用を全額支払い、その後、市や区などに申請します。
すると、所得に応じて7割から9割の保険給付分を償還され、滞納処分を免れることができます。とりあえず、介護サービスの利用分全額を支払う必要があるというわけです。
では、さらに滞納期間が長期化した場合はどうなるのでしょう。
1年6カ月の未納
次のデッドラインは1年6カ月です。この段階では、利用した介護サービス費用を全額支払っただけでは処分を解かれません。さらに滞納分の介護保険料が納付されるまでは、保険給付分の7割~9割が償還されないことになっているのです。
これは要するに、「保険給付分を差押さえられている」という状態と考えればいいでしょう。
2年以上の滞納
さらに2年以上滞納すると、ここで介護保険料は時効により納められなくなります。つまり、滞納分の未納が確定してしまうので、将来的に介護保険サービスを受ける際に滞納していた期間に応じた給付制限を課されてしまうのです。
自己負担割合が1~2割から3割、3割の高齢者は4割に引き上げられ、高額介護サービス費などの支給を受けられなくなってしまいます。
そもそも介護保険料はどのように決まる?
介護保険料の滞納者が増えていますが、実は地域や収入によって納付額が異なります。人によっては、地域による差が納付困難な理由になります。
地域格差は最大で3倍以上
介護保険料は市区町村ごとに区分や基準額が定められているので、地域によってかなり金額に差が出ます。なぜ差が出るのかというと、地域によって人口や産業、個人の収入状況などが異なるためです。
介護保険サービスを受ける世代の割合や要支援、要介護認定を受けている人の人数なども大きく影響します。
地域でどれくらいの差があるかというと、例えば「第1号被保険者」で比較した場合、全国で一番安い介護保険料の地域は北海道の音威子府(おといねっぷ)村で月額3000円、それに対し最も高いのは福島県の葛尾(かつらお)村で月額9800円です。なんと3倍以上の差があります。
音威子府村は人口800人足らずですが、要介護の人の割合が10%を切っているため、介護サービスを利用する人が極めて少ないというのがその理由です。これに対して葛尾村で注目すべきなのは要介護認定率の高さ。この村は要介護認定率が29.5%と高く、人数の少ない地域にもかかわらず介護サービスを利用する人がかなり多いことがわかります。
こうした介護保険料の地域差は、データ上は見えにくい、介護をめぐる地域事情の見え隠れする部分です。介護保険料の高い地域では滞納者の数も増える傾向にあるので、そうした地域ではさらに社会福祉の状況が悪化していく、という悪循環が起こりやすいといえます。
収入によって異なる介護保険料
介護保険の被保険者の区分は65歳以上の高齢者が対象の「第1号被保険者」と40歳から64歳の人が対象の「第2号被保険者」の2種類です。
このうち、「第2号被保険者」の保険料は加入している医療保険の算定方法によって決まり、医療保険料と一括して納付していきます。
「第1号被保険者」の保険料については、多くの自治体では9段階から10段階以上、加入者の所得額ごとに分けた区分によって納付金額が決められるという仕組みです。
例えば、「第1号被保険者」の第1段階に当たる人は、主に生活保護受給者などの所得の低い人が対象になります。段階の数が上がるごとに基準となる所得金額が上がっていき、調整率や介護保険料の納付金額も段階ごとに大きくなるということです。
介護保険料の支払いが困難なら減額の対象かも
介護保険料の滞納は、将来的に自分にとってさまざまな不利益をもたらします。したがって、やむをえず滞納せざるを得ない状況であったとしても、なんとか差押えや減額処分になることは避けたいものです。
幸いにして、各市町村では介護保険料を払えない人向けの救済措置を用意しています。介護保険料の減額制度がそれです。
所得が低い場合
所得が低いことや、所得税や住民税の納税者の扶養家族でないこと、医療保険の被扶養者になっていないことなどを条件に、介護保険料が減額されます。
支払いが難しい方は、その時点で市町村の窓口、または電話相談窓口で相談をして(たいていは専門部署の介護福祉課などが担当)、申請に必要な手続きを聞いておくといいでしょう。
風水害や火災などの事情がある場合
記憶に新しい台風などの風水害、火災、震災などのほか、事業の廃止、生計を維持している人が急に亡くなった、といった特殊な事情の場合も、介護保険料の減額制度の対象になり得ます。
何らかのやむを得ない事情で支払いが難しい場合でも、減額制度を利用すれば滞納処分を免れる可能性はあります。必要であればぜひ利用しておきましょう。
介護保険料の滞納を避けるため、早めに手を打とう
介護保険料は、今後も納付額を上げていくことが政府や各団体の間で検討されています。そのため、今後ますます滞納状態となる被保険者の数は増えるでしょう。
しかし、介護保険料の滞納によって深刻な不利益を受けるのは滞納者自身。やむを得ない事情がある場合は減額制度を利用するという方法もあるので、滞納状態を避けるための手を早めに打っておくことが重要です。
<参考>
JOINT「介護保険料の滞納、資産の差し押さえが最多に給付制限も増加厚生省」
シニアガイド「高いところと安いところで、3倍以上も違う介護保険の保険料」