2012年4月より、新しい介護保険制度がスタートしました。実際にそれに伴い、私たちの生活のなかで介護保険や介護サービスはどのように変わるのでしょうか?
「地域包括ケアシステム」に伴うその他の変更点
前回紹介した「定期巡回・随時対応型訪問介護看護の創設」「複合型サービスの創設」以外にも、以下のような取り組みが「地域包括ケアシステム」創設のために進められることになります。
●介護予防・日常生活支援事業の強化
重度の介護、看護が必要な人だけでなく、そうした状態を防ぐための「介護予防」、また高齢者の日常生活の支援強化を目指し、市町村を中心とした「介護予防・日常生活支援総合事業」が行われることとなりました。
これにより、市町村または地域包括支援センターは利用者の状態や意向に応じ、予防給付又は総合サービスを利用するかを判断。そのうえで介護予防、配食・見守りなどの生活支援、権利擁護、社会参加など、介護という枠を超えた総合的かつ多様的な地域密着型のサービスを提供していくことができるようになります。

『介護保険制度改正の概要 及び地域包括ケアの理念 – 厚生労働省』より流用
●介護職員によるたんの吸引が可能に
介護と医療、看護の連携の具体策のひとつです。これまでもやむをえない措置として介護現場ではたんの吸引は行われてきましたが、今回の改正で法律上も介護職員によるたんの吸引は認められることとなりました。
具体的には、介護福祉士と一定の研修を受けた介護職員であれば、事業者が都道府県に登録を行えば、たんの吸引を行えるようになります。
●「サービス付高齢者住宅」の創設
2011年に成立した「高齢者の居住の安全確保に関する法律(高齢者住まい法)」により、それまでわかりにくかった高齢者向け住宅の種類が「サービス付高齢者住宅」として一元化されました。
これにより、特別養護老人ホームなど施設へ入所しなくても、住み慣れた地域で住宅を選び、介護サービスを受けながら生活をすることが可能になります。
これには前回紹介した「定期巡回・随時対応型訪問介護看護の創設」との連携も期待されています。
その他の法改正のポイント
その他、今回の法改正に盛り込まれたポイントを整理しておきましょう。
●認知症対策の推進
厚生労働省老健局の推計によると、「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ(自立度を表す記号)以上」の高齢者は、2010年の208万人から2025年には323万人になるとなっています。
これに伴い、今後は親族等による成年後見の困難な人も増加することが予想されるため、市町村は「市民後見人」の育成を押し進め、活用を図ることになりました。
●介護現場での労働環境の改善
介護業界は他業界と比較して労働基準法の違反の割合が多くあり、それが介護人材の確保の妨げになっている要因となっていました。そこで新たに労働基準法などに違反した業者に対しては、指定拒否など厳しい処分を行えるようになりました。
●介護サービス情報公開制度の見直し
これまでは、事業者は利用者の介護サービスの選択に関する情報を事前に都道府県知事へ報告することが義務づけられ、その情報について1年に1回調査をし、都道府県により定期的に公開されていました。
今回の法改正では、事業者の負担軽減を目的とし、その調査の義務づけを廃止し、都道府県が必要があると判断したときに調査することになりました。
それに伴い、利用者にとってもわかりやすい情報公開を目指すことなり、公表される情報の充実も図られることとなりました。
●有料老人ホームの利用者保護の強化
有料老人ホームでの契約時には、前払金、権利金等でのトラブルが目立ちました。そこで今回の法改正では、利用者保護を目指した規定が盛り込まれました。
短期間での契約解除の場合、これまでは老人福祉法に規定されていなかった90日以内の契約解除の場合の前払金返還を、全額返還する(家賃、サービス費など実費相当額を差し引く)契約の締結が義務づけられました。
また、対価が不明瞭でトラブルの原因となっていた権利金等に関しても、受領しないことが義務づけられました。
●保険料上昇緩和のための基金の取り崩し
法改正の大きな目的のひとつに、増加する介護保険料への対策も掲げられていました。その具体的対策として、財政安定化基金(国、都道府県、市町村で3分の1ずつ拠出している、介護保険財政に不足が生じた場合に貸付・交付される仕組み)の余裕分を取り崩し、保険料上昇の緩和等に活用することになりました。また、市町村準備基金の一部も取り崩され、保険料上昇緩和に活用されることになりました。
ただ、実際は保険料は上昇することになります。第5期(2012年〜2014年)の第一号被保険者が負担する月額保険料は、5000円を超えることになります。
この他にも今回の法改正に伴う変更点はありますが、詳しくは厚生労働省のホームページなどを参照ください。
以上、4回に渡り介護保険法改正に関して見てきましたが、あくまで法改正に伴う核となる変更のポイントを整理しただけなので、具体的にみなさんの生活に関わる介護現場での事柄は、その現場ごとに異なってくることが予想されます。サービスの提供、料金など、より便利に、コストも抑えた形で受けられる可能性もあるので、市町村窓口や地域包括支援センターなどに相談してみてください。
参考:
『介護保険制度改正の概要 及び地域包括ケアの理念 – 厚生労働省』
『最新 よくわかる!介護保険のしくみと活用法』高橋書店
<取材・構成・文 編集部>