「親御さんの財産をどう守るか」をテーマに展開してきたこの特集も、今回で最後になります。そこで、いよいよ親御さんの判断能力が低下し、大きな財産や日常の金銭管理も難しくなってきた場合を想定し、トラブル回避として、成年後見のこともお知らせします。
<構成・文:三輪 泉(ライター・社会福祉士)
協力:弁護士法人 中村綜合法律事務所 代表弁護士 中村雅男>
本人が不利益にならないように支援する制度
最近、ときどき耳にするようになった「成年後見」。判断能力が不十分な人を支援する制度です。
私たちはこの社会で、日々契約を前提にして暮らしています。
生活に必要な商品を買うことも、ひとつの契約。商品の対価を払って、商品を受け取る契約です。そのほかにも、高齢者なら、年金を受け取るための金融機関との契約もあれば、介護保険を利用して介護サービスを受ける場合の契約もあるわけです。
こうした日々の契約をするには、さまざまな判断力が必要です。
が、認知症や障がいなどが原因で判断能力が不十分な場合、生活に支障をきたし、ときとして不利益を被ります。成年後見は、本人に代わって契約を結んだり、不当な勧誘によって結んでしまった契約を解除したりして、不利益にならないよう支援するのが目的です。
その際に、念頭に置きたいのはご自身の自己決定の尊重です。たとえ良かれと思っても、サポートする人が自分の判断で支援するのではなく、判断能力が少しでも残っていれば、その能力を活用し、自分らしく自分の意思を大事にして生活してもらいます。
成年後見にはふたつの種類がある
成年後見には、法定後見と、任意後見があります。
任意後見は、本人に判断能力がある間に、判断能力が不十分な状態になることに備えて、契約によって任意後見人になる予定の者を選任。そして、本人の判断能力が不十分になった場合に、その任意後見人に権限を付与する制度です。まさに、自己決定による支援と言えます。
法定後見制度は、法律の規定に基づいて、本人の判断能力が不十分になってから、家庭裁判所が成年後見人などを選任し、その成年後見人などに権限を付与する制度です。
法定成年後見には、3つの類型があります。
①後見
被後見人は、判断能力が欠けているのが常で、日常生活の買い物もひとりでできない程度。この場合、成年後見人は、日常生活で必要な少額なものの購入や、日々の暮らしは本人に任せるとして、財産に関するすべての法律行為を代理する権利を与えられます。
②保佐
日常生活の買い物程度ならできるが、不動産の売却や自動車の購入、金銭の貸借はできない程度。
③補助
不動産の売却や自動車の購入、金銭の貸借に不安が残る程度。
保佐と補助の場合は、本人の残存能力を尊重しながら、支援をすすめます。
家庭裁判所から選任される法定成年後見人など
法定後見制度を利用すると、悪徳業者から不当な買い物を強いられてもそれを阻止したり取り消したりすることができます。特に、成年後見であれば、財産の管理を全面的に成年後見人に任せるので、リスクはほぼ回避できます。
成年後見人などは、家庭裁判所が最も適任と認める者として選任します。ただ、実際には、本人の配偶者、親、子ども、その他親族の中から選出される場合が多いようです。となれば、親御さんの財産を子どもが守る方法としては、かなり確実な方法といっていいでしょう。
法定成年後見人などであれば、その活動の報告や出納を家庭裁判所に提出するので、不正な使い込みなどはほぼ防げます。しかし、やはりきょうだいが複数いる場合は、相続をめぐってトラブルになる場合があります。法定成年後見人などは、ひとりでなくてもかまわないので、きょうだい全員で後見人などになり、協同で親御さんの財産管理をすることも考えるといいでしょう。
*成年後見制度を利用するときの費用や報酬はこちらで詳しく紹介しています。
親御さんが長年にわたって大切に蓄積してきた財産。少しでも失わないよう、また、きょうだいともトラブルにならないよう、8回にわたって紹介してきた方法を思い出し、親御さんにとって幸せな管理になるよう心がけていただければと願います。
プロフィール
弁護士 中村雅男(なかむら・まさお)
弁護士法人 中村綜合法律事務所 代表弁護士。相続、遺言、成年後見、家庭のトラブル、不動産取引など民事全般から、商事、会社法務、行政事件、労働事件、 医療事件、交通事件、契約・交渉事件、一般刑事事件などを多数取り扱う。シニア世代の相談やトラブルへの対応経験も豊富。
ほがらか信託株式会社 代表取締役。
中村綜合法律事務所