一人暮らしの高齢者は食事が偏りがち?
一人暮らしの高齢者は、毎日の食事が簡素になり栄養バランスが偏ってしまいそうなイメージはありませんか?
農林水産省の調査によると、70歳以上の約74%もの高齢者が「栄養バランスに配慮した食生活をほぼ毎日心がけている」と答えています。
「栄養バランスに配慮した食生活をほぼ毎日心がけている」人の割合を年代別に見てみましょう。
<20代> 男性34.5% 女性39.2%
<30代> 男性33.0% 女性46.2%
<40代> 男性49.0% 女性54.0%
<50代> 男性45.8% 女性63.8%
<60代> 男性58.0% 女性66.8%
<70歳以上> 男性73.6% 女性73.4%
20~60代では、女性のほうが栄養バランスに気を使っていますが、70歳以上では男女ともに高い割合を示しています。このように、高齢になるにつれて食事の栄養バランスに対する意識が高まっていることがわかります。
ただし、これは子どもや配偶者と同居している高齢者を含みます。
60~70代の男女を対象とした調査結果(株式会社日本能率協会総合研究所)によると、「栄養バランスがとれている」と考える人は夫婦のみ世帯、子ども家族と同居世帯ともに80%を超えていますが、一人暮らし世帯の高齢者は55%にまで落ち込みます。
一人暮らしをする高齢者の2人に1人は栄養バランスがとれていないのです。
▼普段の食生活「栄養バランス」意識

*株式会社日本能率協会総合研究所「60歳~79歳の男女に聞く 食生活と食意識に関する調査」より
栄養バランスのよい食事を増やすために必要なのは「手間がかからないこと」(農林水産省調査)だと考える高齢者が50%程度いることからも、簡単なもので食事を済ませてしまう傾向が強いことがわかります。
食事の準備は、家族がいれば任せられたり、誰かのために作れば張り合いもでますが、一人暮らしで自分の分だけを作るとなると、手間がかかるほか、食材を使いきれないなどの問題も出てきます。
しかし高齢になるにつれ、栄養バランスを重視した食事が大切になるので、効率よく摂取できるよう必要なエネルギー量や食事の目安量をチェックしておくと良いでしょう。
高齢者に必要なエネルギー量
1日に必要なエネルギー量は、年齢や性別、活動量により異なります。
70歳以上の1日に必要なエネルギー量を身体活動レベルが低い人・普通の人・高い人に分類したものが以下です。
<男性>
低い人 1,850kcal
普通の人 2,200kcal
高い人 2,500kcal
<女性>
低い人 1,500kcal
普通の人 1,750kcal
高い人 2,000kcal
このように同じ70歳以上でも、スポーツなどの余暇活動で活発な運動習慣がある活動レベルの高い人と、生活の大部分を座位で過ごす活動レベルの低い人では、1日に必要なエネルギーは男性で650kcalも違います。
これは、ナポリタンスパゲッティ1人前、または大福3個ぶんくらいの量になり、1日に必要なエネルギー量は人により大きく異なることがわかります。
高齢者は何を食べたらいい?栄養バランスは?
では、何をどのくらい食べたら良いのか? 1日の食事目安量を見てみましょう。
高齢者の食事では、タンパク質とエネルギーの補給が特に重要となります。
<主食>
・ごはん茶碗に軽く盛る程度(3食あたり) 300g~350g
(食パンなら1食1枚、麺類なら1/2~1玉程度)
・イモ類 100g
<血液や筋肉を作るタンパク質などを補う主菜>
・卵1つ
・魚介類は、切り身1切れ 50~70g
・肉は、薄切り肉2~3枚程度 50~70g
・大豆や大豆製品 80g
<ビタミンやミネラルなどを補う副菜>
・野菜やきのこ、海藻類 300~400g
・果物は、みかん1個とりんご1/4個程度100g~200g
<カルシウムを中心にバランスよく栄養補給可の牛乳や乳製品>
・牛乳や乳製品 1~2カップ
<その他>
・油 大さじ1杯
・砂糖 大さじ1~2杯程度
上記は、あくまで摂取の目安です。
数字にこだわりすぎてしまうと、調理や食事自体が苦痛に感じられてしまうこともあるため、まずはまんべんなく食べることを心がけましょう。
高齢者のメニュー例(1,800kcal前後)
続いて農林水産省の「シニア世代の健康な生活をサポート 食事バランスガイド」から、1,800kcal前後の具体的な1日メニューを紹介します。
おおむねこのカロリーに当てはまるのは、身体活動レベルが低い男性、もしくは活動レベルが普通の女性です。
<朝食>
ごはん1杯
野菜サラダ
納豆
フルーツヨーグルト
<昼食>
天ぷらうどん
ほうれん草のおひたし
りんご半分
<間食>
牛乳コップ半分
<夕食>
ごはん1杯
具だくさん味噌汁
筑前煮
酢の物
焼き魚
これらに加え、毎食お茶や水などの水分も忘れずに摂取するようにしましょう。
このようにメニューで見ると、高齢者だからと極端に量が少なかったり、食べるものが制限されている印象はありません。メニューに困った場合は、栄養バランスのとりやすい和食中心の献立がおすすめです。
持病などがあれば、医師の指示に従った上で献立を検討しましょう。
食事を充実させる5つの方法とは?

食事のバランスが重要なことはわかっていても、毎日きちんと食事を準備するのはなかなか難しいものです。
そこで食事を充実させるための5つの方法と、それぞれのメリットデメリットをご紹介したいと思います。
1 要介護であればヘルパーを利用する
メリット
要介護の認定を受けている高齢者は、介護保険サービスのヘルパー利用が可能です。ヘルパーが自宅へ訪問して調理をしてくれるので、作りたての温かい料理を食べることができます。
デメリット
ヘルパーによっては、料理の味やメニューなど仕上がりにムラが出ることもあります。
2 家事サービスを利用する
メリット
介護保険対象外の人は、家事代行サービスの利用もおすすめです。家事代行サービスでは、料理が得意な主婦などが調理を担当してくれるため、食事の内容も楽しめるでしょう。
デメリット
民間のサービスなので介護保険のホームヘルパーよりも値段が高くなってしまいます。
3 配食サービスを利用する
メリット
配食サービスも便利です。提供会社によっては1食分からおかずのみでも注文でき、必要な日に配達してもらうことができます。また、お弁当の配達時に安否確認をしてもらえば、一人暮らしの高齢者には安心です。自治体によっては助成があるので、利用の際は確認してみてください。
デメリット
自炊に比べると高くつき、メニューも限られます。お弁当が続くと味気ないと感じることもあるでしょう。
4 自分で作れるなら自炊にチャレンジ
メリット
最近では、ネットや本などでさまざまなレシピを見ることができます。自分で料理のメニューを考えて買い物・調理をすれば、節約や介護予防にも繋がります。
デメリット
ただし認知症の方は自炊が難しいケースもあり、火の取扱いには注意が必要となります。
5 老人ホームに入居する
メリット
施設へ入居すると、その方の体調に合ったバランスの良い食事が毎日提供されます。
食事の硬さや食形態が合わない場合には柔軟に対応してもらえ、みんなで食べることで食が進むことも期待できます。
デメリット
ただし施設に入居すると、毎月まとまった費用が必要となり、金銭的負担は大きくなります。
高齢者の食事の注意点とは?
塩分のとりすぎは、生活習慣病と呼ばれる高血圧や脳卒中、心臓病の原因となります。1日あたりの塩分摂取量の目安は、男性は9g未満、女性は7.5g未満です。
味付けにだしや生姜、お酢などを利用する、ラーメンやうどんの汁は飲まずに残すなど、塩分を控えるよう工夫しながら食事を楽しみましょう。
塩分量の他にも意識したいのがカルシウムの摂取です。日本人に不足しがちなカルシウムは、毎日摂取しないと骨や歯が弱くなる原因となります。
乳製品や海藻・小魚はもちろん、豆類や野菜もカルシウム含有量の高い食べ物です。これらの食材を意識して食事に取り入れてみてください。
また、持病がある方は、塩分やカリウム・リンなどの摂取可能な量に個人差があります。決して自己判断はせずに、医師に相談して指示に従いましょう。
まとめ
高齢者の正しい食生活は、病気の予防はもちろん、自律神経や精神面の安定、体重管理や便通の改善などたくさんのメリットがあります。とはいえ、気負いすぎずに食事を楽しむことも大切です。
食事は1日3回、毎日のことなので、まずはできるところから少しずつ改善して、正しい食生活を継続できるよう心掛けていきましょう。
<参考資料>
農林水産省「食育に関する意識調査」
農林水産省「食事バランスガイド」
株式会社日本能率協会総合研究所「60歳~79歳の男女に聞く 食生活と食意識に関する調査」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」
東京都福祉保健局「フレイル予防のための食のサポートブック」