「食事は人生の楽しみのひとつ」という高齢者も多いのではないでしょうか。しかし、加齢に伴って噛む力や飲み込む力が弱くなることもあります。そのような状態になったときに必要なのが「介護食」です。
普通の食事が食べにくくなった高齢者が安全に食事できるよう、介護食の種類や、選び方、調理のポイントなどを解説します。
そもそも介護食とはどんなもの?
介護食とは、噛む力や飲み込む力に問題があって、普通の食事を食べることが難しい人のために作られた食事のことです。噛んだり飲み込んだりが楽にできるように、やわらかくしたものやトロミがついたものなどいろいろな種類があります。
介護食に明確な定義はありませんが、その人の状態に合わせた食事の形状を選ぶことが大切です。なぜなら、本人の状態に合っていない食事を無理に食べると、食事を楽しめないだけでなく、誤嚥(ごえん:食べ物が気管に入ること)によって窒息したり誤嚥性肺炎を起こしたりする恐れがあるからです。
ユニバーサルデザインフードの選び方のポイントとは
日本介護食品協議会では、適切な商品を選べるよう介護食に対する規格を制定しています。この規格に当てはまる食品が「ユニバーサルデザインフード」です。
ユニバーサルデザインフードには、レトルト食品や冷凍食品のほか、食品にトロミをつけるトロミ調整食品などいろいろなものがあります。しかし、そのすべてに共通しているのが、食べやすさに配慮している点です。
ユニバーサルデザインフードのパッケージには、ユニバーサルデザインフードマークと共に、4段階に分けられた「噛む目安」が記載されています。消費者は、その目安を見て商品を選べばよいというわけです。

*日本介護食品協議会HPより
表記がわかりやすいも、ユニバーサルデザインフードの特徴のひとつといえるでしょう。ユニバーサルデザインフードの噛む目安となる4つの区分を紹介します。
容易に噛める
飲み込む力は普通ですが、硬いものや大きいものはやや食べづらい人向けの食品になります。硬さの目安は、ご飯でいうと普通のご飯からやわらかめのご飯、魚でいうと焼き魚です。
歯ぐきでつぶせる
硬いものや大きいものは食べづらく、ものによっては飲み込みづらい人のための区分になります。ご飯はやわらかめから全粥、魚は煮魚が硬さの目安です。
舌でつぶせる
細かいものややわらかいものでないと食べにくい人、水やお茶がやや飲み込みづらい人は、この区分になります。ご飯は全粥、魚はトロミあんかけのほぐし煮が硬さの目安となり、トロミのついたメニューが多いのも特徴です。
噛まなくてよい
読んで字のごとく、噛まなくても食べられる食品がそろっています。お粥をペースト状にしたご飯や、裏ごしした白身魚などが硬さの目安です。固形物が食べにくい人や、水やお茶が飲み込みづらい人は、この区分になります。
また、ユニバーサルデザインフードでは、トロミ調整食品の使用目安についても、4つの段階に分けています。
「+」の数で、トロミの強さを示しています。カッコは使用量の目安です。
「+」 フレンチドレッシング状(1g程度)
「++」 とんかつソース状(1~2g程度)
「+++」 ケチャップ状(2g程度)
「++++」 マヨネーズ状(3g)
この表記をトロミ調整食品の使用の目安にするとよいでしょう。ただし、噛む力や飲み込む力の状態は人それぞれです。どのくらいの硬さのものを食べたらよいのかは、医療機関の専門家に確認することをおすすめします。
介護食にもいろいろな種類がある!?
介護食と一口にいっても、その形状にはさまざまな種類があります。
きざみ食
きざみ食は、飲み込む力に問題はなく噛むことが難しい人のための介護食です。その名の通り、食事を細かく刻むことで食べやすくしています。
ただし、その人の噛む力の状態に合わせて刻む大きさは違います。たとえば、1~2cm大に刻めば食べられる人から5mm程度まで細かく刻む必要がある人まで、食べやすい大きさは人それぞれなので注意が必要です。
きざみ食のメリットは、噛む力が低下した人でも食べやすく、食事の色や味、香りが変わらないので食欲が出ることです。介護食はどうしても見た目や味が変化しやすいので、刻むだけのきざみ食なら食欲低下を防げます。
しかし、きざみ食は噛む力だけでなく飲み込む力にも問題がある人には不向きです。なぜなら、刻むことで食品が口の中でまとまりにくくなるため誤嚥の心配があります。
また、細かく刻んだ食品が歯に詰まりやすくなるデメリットもあるため、食後の口腔ケアが欠かせません。さらに、きざみ食を作る際は衛生管理にも気を配る必要があります。調理に使用する包丁やまな板は「調理用」と「きざみ食用」に分けるなどし、食中毒に注意しましょう。
ソフト食
ソフト食は、歯ぐきで噛めるくらいにやわらかくした介護食です。なかには、食品をミキサーなどで細かくしたうえで、食材に合わせたつなぎを使って成型し直したものもあります。見た目にもおいしく食べやすいので食事が楽しめるでしょう。
ソフト食のやわらかさは、焼き豆腐くらいのものから木綿豆腐程度のもの、絹ごし豆腐くらいのものまでいろいろあるので、その人の状態に合わせて選ぶことが大切です。
ミキサー食
ミキサー食は、噛む力、飲み込む力が共に低下している人のための介護食です。食事をミキサーにかけ、必要に応じてトロミをつけます。ミキサーによって食品を細かくしているので、噛む必要がありません。そのため、きざみ食以上に食べやすくなります。
ただし、ミキサー食を作る際は「硬さ」に注意が必要です。水分が多すぎると飲み込みにくくなり、誤嚥のリスクが上がります。
一方、トロミを強くつけ過ぎると喉に詰まる心配があるため、一般的なミキサー食のトロミの強さはポタージュ程度と覚えておくとよいでしょう。
噛む力や飲み込む力が低下した人におすすめのミキサー食ですが、見た目からは献立がわからないので、食欲が出なかったり、水を加えてミキサーにかけるために栄養価が下がったりするデメリットがあります。その結果、食事摂取量の低下を招き、低栄養状態を引き起こすケースも少なくありません。
「味がおいしくなるように作る」「少ない量でも栄養が取れるようにする」などの工夫が必要です。
ゼリー食
食品をミキサーにかけたのち、寒天やゼラチンなどで固めたものがゼリー食です。一度、ペースト状にしているので歯ぐきでも噛めます。噛んだり飲み込んだりする力が低下している人でも食べやすいでしょう。
さらに、ひとつひとつのメニューを個々に盛り付けることができるため、見た目がよく、食欲が増すメリットもあります。
なぜ介護食が必要なのか

介護食が必要な理由には、高齢者特有の身体的な問題が影響しています。まず、高齢になると歯が少なくなったり筋力が低下したりするので、噛む力や飲み込む力が弱くなります。そのため、硬いものが食べられなくなったり水が飲みづらくなったりするのです。
また、唾液の分泌も少なくなるので、舌苔(ぜったい:舌に細菌などが付着すること)ができやすくなり食事がまずく感じられることもあります。そのうえ、嗅覚や味覚が鈍くなるため、ますます食欲低下につながるのでしょう。
さらに、口渇中枢も加齢によって衰えます。食事量が少なくなることに加え、喉の渇きを感じにくくなるため脱水症に陥りやすいのも高齢者の特徴です。
ほかにも、認知症によって食事そのものを理解できなくなるケースや、麻痺や筋力の低下など身体的な障害によって食事が難しくなるケースもあります。
食事がしっかり取れないことで、高齢者にどのような影響があるのでしょうか。
まず、低栄養によって免疫力や体力の低下を招き、病気にかかりやすくなります。加えて、筋肉量や骨量も低下するため、骨折しやすくなることも考えられるでしょう。
一方、食事は栄養を摂取するためだけでなく、生きる楽しみにもつながる行為です。そのため、食事が取れないことで、認知機能の衰えが見られたり生きる気力を失ったりする人もいます。このような状況に陥らないために、一人ひとりの状態に合わせて安全に食べられる介護食が必要なのです。
介護食を家庭で用意するときのポイント
家庭で介護食を準備する際は、食べる人の噛む力や飲み込む力に合わせて加工することが重要です。普通食を刻めば食べられる人、ミキサーにかけてペースト状にする必要がある人など、介護食にもいろいろな加工方法があります。
食事の形状について心配な人は、かかりつけの医師など専門家に相談してみるとよいでしょう。
介護食の基本はやわらかく作ることです。肉や野菜など繊維の多い食品は、ミキサーにかけても繊維質が口に残ってしまう場合があります。そのため、「繊維を断つように食材をカットする」「圧力鍋を使う」「切れ目を入れる」などの工夫が必要です。
また、パサパサするものにはあんをかけたり、水気の多いものにはトロミをつけたりすると食べやすくなります。栄養面を考えることはもちろん、見た目にもおいしい食事になるよう色や盛り付け方法にも配慮しましょう。
レトルト食品や配食サービスを利用する
一方、一人ひとりの状態に合わせた「スマイルケア食」や「配食サービス」を利用する方法もあります。
前者のスマイルケア食は、さまざまなメーカーが介護用として販売しているレトルト食品のことです。食べやすさはもちろん、味や見た目にもこだわったものが多いので、楽しみながら食事ができます。
後者の配食サービスは、各企業で作った介護食を配達してくれるサービスです。栄養価計算がしっかりされていたり、糖尿病や高血圧などの病気を抱える人向けのメニューがあったりするので、安心して食べられます。
自宅で介護食を作るのは容易ではありません。このようなサービスを上手に活用し、介護者の介護負担軽減を図ることも大切です。
介護食を活用して食事を楽しもう
栄養を摂る目的だけでなく「食事が生きがい」という人もいるくらい、人生において食事は大切なものです。しかし、高齢になり噛む力や飲み込む力が弱くなると、食事が苦になることもあります。そればかりか、無理に食べることで喉に詰まったり誤嚥したりする恐れさえもあるのです。
そのため、その人の状態に合った介護食が必要となります。介護食を活用すれば、もっと食事を楽しめるでしょう。
参考資料
ユニバーサルデザインフードとは(日本介護食品協議会)
スマイルケア食の取組について(農林水産省)PDF
介護食の基礎と作り方(食のバリアフリー研究所)
介護食のはなし(日本臨床内科医会)PDF