『日本の長寿村・短命村』という本があります(サンロード出版刊・初版は1972年)。著者は東北大学名誉教授・医学博士の近藤正二氏(1893~1977年)。
近藤氏の専門は衛生学で、その研究に没頭しているうちに日本人の長生きぶりに関心を持ちました。そこで、1935年頃から35年以上かけて日本全国の990以上の村や町を歩き、主に食生活について長寿者の多い村と少ない村の比較研究を行ったのです。その研究についてまとめたのが本書です。
本書によると、長寿村・短命村に見られる特徴として、次のことが挙げられています。
・一番短命な秋田県は、塩辛い味噌漬けをおかずにして白飯を大食している。
・北海道の大部分の漁村のように、魚ばかり大量に食べて野菜をごく少量しか食べないところは心臓病で若死にしている。
・大豆を欠かさず食べている村は長生きが多い。
・野菜、特にニンジン、カボチャ、イモ類をたくさん食べている村は長生き。
・果物をたくさん食べれば、野菜は食べなくてもいいということはない。
・毎日海藻を食べている村は、脳卒中が極めて少ない。隣村でも、食べていないところの脳卒中は多い。
いかにも健康的なイメージがしますね。とはいえ、40年以上も前の食生活。「現代ではどうなのか?」と気になるところでしょう。
全国の市区町村 平均寿命ランキングでは?
2013年7月31日に厚生労働省が「平成22年市区町村別生命表の概況」を発表しています。全国1899の市区町村の中で、平均寿命を男女別にみた上位と下位は、それぞれ下記の通りでした。
●平均寿命ランキング 上位3市区町村(男性)
1位 |
長野県北安曇郡松川村 |
82.2歳 |
同地域の女性は87.75歳(41位) |
2位 |
神奈川県川崎市宮前区 |
82.1歳 |
同地域の女性は87.41歳(126位) |
3位 |
神奈川県横浜市都筑区 |
82.1歳 |
同地域の女性は87.55歳(77位) |
●平均寿命ランキング 上位3市区町村(女性)
1位 |
沖縄県中頭郡北中城村 |
89.0歳 |
同地域の男性は80.23歳(372位) |
2位 |
島根県鹿足郡吉賀町 |
88.4歳 |
同地域の男性は80.14歳(419位) |
3位 |
北海道有珠郡壮瞥町 |
88.4歳 |
同地域の男性は79.52歳(954位) |
●平均寿命ランキング 下位3市区町村(男性)
1位 |
大阪府大阪市西成区 |
72.4歳 |
同地域の女性は87.75歳(41位) |
2位 |
高知県土佐清水市 |
75.6歳 |
同地域の女性は87.41歳(126位) |
3位 |
大阪府大阪市浪速区 |
75.9歳 |
同地域の女性は87.55歳(77位) |
●平均寿命ランキング 下位3市区町村(女性)
1位 |
大阪府大阪市西成区 |
83.8歳 |
同地域の男性は80.23歳(372位) |
2位 |
和歌山県御坊市 |
84.0歳 |
同地域の男性は80.14歳(419位) |
3位 |
青森県水戸郡階上町 |
84.2歳 |
同地域の男性は79.52歳(954位) |
長寿の市・長野県佐久市の食習慣とは?
前述の平均寿命ランキングですが、47都道府県別にみると、以下の結果となっています。
●平均寿命ランキング 上位3都道府県(男性)
1位 |
長野県 |
80.9歳
|
同地域の女性は87.2歳(1位) |
2位 |
滋賀県 |
80.6歳
|
同地域の女性は86.7歳(12位) |
3位 |
福井県 |
80.5歳 |
同地域の女性は86.9歳(7位) |
●平均寿命ランキング 上位3都道府県(女性)
1位 |
長野県 |
87.2歳
|
同地域の男性は80.9歳(1位) |
2位 |
島根県 |
87.1歳
|
同地域の男性は79.5歳(26位) |
3位 |
沖縄県 |
87.0歳 |
同地域の男性は79.4歳(30位) |
●平均寿命ランキング 下位3都道府県(男性)
1位 |
青森県 |
77.3歳
|
同地域の女性は85.3歳(47位) |
2位 |
秋田県 |
78.2歳
|
同地域の女性は85.9歳(39位) |
3位 |
岩手県 |
78.5歳 |
同地域の女性は85.9歳(43位) |
●平均寿命ランキング 下位3都道府県(女性)
1位 |
青森県 |
85.3歳
|
同地域の男性は77.2歳(47位) |
2位 |
栃木県 |
85.7歳
|
同地域の男性は79.1歳(38位) |
3位 |
和歌山県 |
85.7歳 |
同地域の男性は79.1歳(37位) |
興味深いのは、長野県が男女とも1位であったことです。また、その中でも特に、佐久市は安定的に上位にランクしています。
●長野県佐久市の平均寿命
男性15位 81.73歳
女性19位 87.96歳
1995年に、1990年に行われた国勢調査の結果が発表され、長野県佐久市が全国633市の中で男性78.4歳で1位、女性83.7歳で11位、合わせて日本一の長寿の市となりました。
そこで、佐久市保健課の栄養士7人が調査チームを立ち上げて、93項目にわたって797人の佐久市民の食習慣や生活習慣を調査。その結果、「かけ菜」という、秋漬けの野沢菜の余ったものを陰干しして乾燥させたものを冬場の野菜として摂取することや、凍み豆腐や味噌、きな粉などの大豆加工品、鯉や鮒などの川魚、蜂の子などの昆虫の食習慣が好影響を及ぼしている可能性が浮上しています。
23年経過しても、佐久市民の生活習慣は相変わらず健康的といえそうです。
長野県が「長寿日本一」になったのは理由があった?
厚生労働省「平成22年市区町村別生命表の概況」において、長野県の男性の平均寿命が80.9歳、長野県の女性の平均寿命が87.2歳となり、長野県が男女ともに長寿全国1位でした。
長寿県である長野県民の健康の秘密について紹介します。
現在では長寿県ですが、長野県は1965年の調査では、男性は9位(68.5歳)、女性は26位(72.8歳)で、脳卒中の死亡率は全国1位であったそうです。
そこで、順天堂大学大学院教授の白澤卓二氏は長野県民の長寿の要因を調査し、『長寿県 長野の秘密』(しなのき書房刊)にその調査結果をまとめました。
これによると、40年前の全国一高い脳卒中死亡率の原因は、塩分摂取量の多さということです。海に面しておらず、厳しい冬のために塩辛い保存食を多く食べていました。
そこで、県を挙げて保健師による健康指導(ピンピンコロリ運動)が積極的に行われるようになりました。“げんき”(げ:減塩、ん:運動、き:禁煙)をテーマに、住民ボランティアも加わって草の根的に推進されたのです。
“山岳県”である長野県は標高が高く、気圧が低い環境で栽培された野菜類は、カロテンやポリフェノールなど抗酸化作用や免疫力を高める栄養素をより多く含んでいます。長野県民の野菜摂取量は1日あたり379g と全国1位。こうした野菜を多く摂取していることも好影響を及ぼしていることが推察されています。
長野県民の血液を調べたところ、オメガ-3脂肪酸の濃度が高いことがわかりました。オメガ-3脂肪酸には、青魚に多く含まれていることが知られているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、植物油に含まれるα‐リノレン酸があります。
これらには、コレステロールを下げる、中性脂肪を下げる、動脈硬化や心筋梗塞、脂肪肝、高脂血症などを防ぐ、脳の活性化による記憶力向上、認知症予防などの効果があることが知られています。オメガ-3脂肪酸は体内で生成しないので、食べ物から摂取しなければなりません。
海のない長野県では、青魚を多くは食べません。しかし、オメガ-3脂肪酸はエゴマ油やクルミ、緑黄色野菜、豆類にも多く含まれており、これらを多く摂取していることが考えられます。
長野県はアクティブシニアとなれる環境も充実
長野県民の長寿の要因は、食習慣だけではありません。先述のとおり標高が高いことにより気圧が低くなることで、白澤氏はスポーツ選手の高地トレーニングのように少ない酸素で効率的にエネルギーを生成しようとする働きが活性化することを挙げています。
また、長野県は高齢者の就業率、公民館の数、博物館の数、ボランティア参加率、旅行・行楽に行く人の割合がすべて47都道府県のうち10位以内に入っています。アクティブシニアが多いことが想像できます。
長野県民の食習慣・生活習慣は、健康で長生きするヒントがたくさん詰まっていそうですね。