まだまだ元気で、「働いて世の中の役に立ちたい」というシニアを登録し、人手不足の介護現場に人材派遣や人材紹介を行っている会社があります。
そのうちの一つ「株式会社かい援隊本部」をご紹介します。
高齢者でもできる仕事はたくさんある!
「かい援隊本部の“かい”は、介護の“かい”と、生き甲斐の“かい”をかけています」と、代表取締役会長の新川政信さんは社名の由来を説明します。
日本には3,300万人もの、まだまだ元気で働ける60歳以上のシニアが存在しています。一方で、高齢者の介護現場は人手不足。2025年には介護要員が100万人も不足すると予測されています。
そのことを知った新川さんが、この両者を結びつけて介護現場などへのシニアの人材派遣や人材紹介を手がけようと、2011年に同社を設立しました。
●介護職員の推移と見通し(厚生労働省)

(注) 平成27年度・平成37年度の数値は社会保障・税一体改革におけるサービス提供体制改革を前提とした改革シナリオによる。()内は現状をそのまま将来に当てはめた現状投影シナリオによる数値。2015年、2025年の推計値に幅があるのは、非常勤比率の変動を見込んでいることによるもの。【出典】厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」、「医療・介護に係る長期推計(平成24年3月)」
同社には、2014年12月時点で1000人近くのシニアが登録しており、100人ほどが常時稼働しています。介護施設が80%で、残りは同様に人手不足の保育施設や知的障がい者施設などにも派遣・紹介されています。
こうした施設では資格を持った職員が主に働いていますが、本来の介護業務以外に、資格を必要としない調理や清掃、洗濯など家庭の家事と同様の雑務がたくさん存在しています。人手不足の現場ではこうした雑務も職員がこなしている実情があるのです。
「そこで、経験豊富なシニアを派遣し、こうした雑務をやってもらうことで、介護職員には本来の業務に集中してもらえる効用があります。それだけでも、介護現場の疲弊感をかなり軽減させることができるのです」と新川さんは言います。
もちろん、登録しているシニアの中には介護福祉士やホームヘルパーなどの資格所有者も多く、「定年後も引き続き仕事を続けたい」というニーズにも対応しています。入浴介助やベッドの異動など「介護は力仕事」というイメージもありますが、どうしても力が必要な仕事は若いスタッフにやってもらえばよく、介護には高齢者でもできる仕事はたくさんあるのです。
「中には、自分よりも年下の利用者を介護するスタッフもいます」と新川さんは言います。
利用者の話相手や、若い職員の“知恵袋”にも
シニアが介護現場で働くことには、別の効用もあります。介護スタッフには20代、30代の若い人材も多い中、介護される高齢者にしてみれば同世代の人が加わることで、話が合うというメリットがあります。また、「おばあちゃんの知恵袋」的に若いスタッフからも頼られることも多いといいます。
そして何よりも大きな効用は、定年後もこうして働いて人の役に立てる実感を味わえることです。その上に、給料までもらうことができます。
「3,300万人ものシニアのパワーは、相当なものだと思います。これが活用されずに退蔵されることは国家的な損失だと思っています。100万人の不足を補うまでの道は遠いかもしれませんが、着実につなげていきたいと考えています」と新川さんは力を込めます。
インタビュー1
実際に「かい援隊本部」に登録し、知的障がい者施設やグループホームに派遣されて働いている片栁さんにお話を伺いました。
「世の中の役に立つことをしたい」との思い

片栁光正さん(68歳)/NPO法人ひまわり惠の会「ひまわり暁の家」に週3日・16:00~18:00に勤務
「ひまわり暁の家」という知的障がい者施設で、2014年9月から働いています。当初から2カ月間は「かい援隊本部」から派遣の形でしたが、11月中旬から人材紹介の形で同施設の直接雇用に変えてもらいました。じっくりここで体が動く限り働きたいと思ったからです。
私は2012年4月まで自営業をしていましたが、諸事情で閉じることにしました。そして、口に出すのははばかられるのですが、今後は世の中の役に立つことをしたいという思いがあったのです。
私の友人に、定年退職後に介護施設でフルタイムのボランティアを続けている男がいて、たびたび「後に続く人がいない」と嘆いていたのを聞かされていたことも影響していると思います。
そこで、地元・江戸川区の「熟年介護サポーター制度」に応募し、1日研修を受けて自宅近くのデイサービス施設で雑務を手伝うボランティアを始めました。
週2日2時間ずつを1年近く続けたところで、もう少し本格的にやって多少なりとも賃金ももらいたいと思うようになったのです。
そこで、区の「シルバー人材センター」に登録に行きました。すると、センターがかい援隊本部と提携していて、W登録できたのです。その場で登録すると、現在の「ひまわり暁の家」への派遣を斡旋してもらいました。
「巡ってきた縁にはとりあえず乗ってみる」という思いがあったので、知的障がい者施設は未知の世界でしたが応じることにしました。
嫌な仕事も、やろうと思えばできた
「ひまわり暁の家」での仕事内容は、6人の利用者が授産所(障がいのある人などが技能を習得しながら仕事をする福祉施設)からマイクロバスで近くの停留所まで帰って来るのを迎えに行くことと、施設に戻った6人のうち一人では入浴できない5人の入浴介助です。さらに、入浴の間に着ていた服の洗濯もします。
身体を洗ってあげると、言葉には出さないものの、気持ちよさそうな、嬉しそうな顔をします。合わない相手だと抵抗されるそうですから、気に入ってもらえているのだと思います。こちらもそれなりにいい気分ですね(笑)。
そして、洗濯の際は、汚れた下着の手洗いもしています。私は介護の資格など持っておらず、こういう世界は正直言うと嫌でした。けれども、やろうと思えばできたのです。そこには、「世の中の役に立つには、きっと超えなければならないハードルというものがある。きっとこれがそうだろう」といった心境がありました。気づいたら、自分らしくもないことを平然としていた自分がいました。ですが、自分でも不思議と違和感はありませんね。
やりがいとしては、「世の中に少しは役に立っている」という淡い実感があります。そして、そんな自分を“自由”と感じられるのです。自分でも不思議な心境ですが、充実しているということだと思います。
インタビュー2
「株式会社かい援隊本部」に所属し、実際に活躍している島内さんにもお話を伺いました。
「かい援隊本部」の活動の趣旨に共感

島内未子さん(72歳)
グループホームに週1日・18:00~翌9:00勤務
認知症の高齢者が集まって暮らすグループホームで、2013年3月の開所以来働いています。最初は週2日でしたが、現在は週1日夜勤をしています。夜中は1時間くらい仮眠できます。
夜勤を選んだのは、昼間を別のことに使えると思ったからですが、やり始めたら夜勤明けの日は体を休めることに費やすようになりましたね。
このホームは、小規模な保育所も併設していて、世代間交流を通じて「幼老統合ケア(*1)」と「能力活用セラピー(*2)」というユニークな取り組みを行っているのが特徴的です。
以前、本部施設が紹介されているテレビ番組をたまたま観て「こういう施設っていいな」と思っていたのですが、その施設が東京にもできて、まさに偶然「かい援隊本部」から紹介されたのです。不思議な縁を感じましたね。
私は公務員から始まり、美容師や看護助手などいろいろな仕事をしてきました。看護助手の経験を活かし、介護福祉士やケアマネジャーの資格も取りました。
2013年に「かい援隊本部」に登録する前は、79歳の友だちに誘われ、個人宅で7年間、24時間交代の在宅介護の仕事をしていました。そのお宅で介護していた老夫婦が2人とも亡くなった時、その友だちが「かい援隊本部」のことを教えてくれたのです。
最初は「面白い社名だな」と思いましたが(笑)、活動の趣旨を知って共感し、ぜひ自分も登録しようと思いました。
好きな仕事で人のためになる。自分が生かされていると実感
お仕事の内容は、まずは夕食の片付けから始まり、70代後半~90代の男性3人・女性6人の利用者の口腔ケアや健康状態のチェック、報告書の作成、就寝準備、朝食の準備といった定型的な業務のほかに、状況に応じての様々な対処を行います。
時には入居者同士、言い合いになったりすることもあり、そんな時は仲裁もしますね(笑)。
もちろん、オムツ交換など排泄介助もありますが、自分の子どものオムツ交換と同じような感覚です。全く嫌ではありません。美容師の技術も生かして、入居者の髪を切ってあげたりもしますよ。
私は、自分がケアをするお年寄りをきれいにしてあげたい、って思うんです。私にとっては、みんな可愛いんです。私は人からうるさがられるくらい人の面倒を見るのが大好きで(笑)、この仕事が楽しくて仕方ありません。いろいろやった仕事の中ではこれが一番です。自分でも“天職”だと思えます。
お給料のことは考えません。自分が好きなことをやれて、人の役に立ち、さらにお金までもらえるんですから。
79歳の友だちは「85歳までやりたい」なんて言ってます(笑)。私も、あと5年は続けたいと思っています。人のためになる好きな仕事をしていると、自分が生かされていると実感できるからです。
(*1)幼老統合ケア:高齢者施設と子どもの施設を合築するなど、高齢者ケアと次世代育成を融合・連携させることにより、費用対効果やケアの質の向上、高齢者の生きがいづくり、教育的効果など一石四鳥を狙う取り組み。
(*2)能力活用セラピー:高齢者が“昔とった杵柄”を活用し、集団生活で役立つことを通じて“感謝される存在”となり、自信や生きがいに繋げる療法。
「かい援隊本部」のサイトはこちら