シニア向けパソコン教室『いちえ会』
もうすっかり私たちの生活インフラとなっているインターネット。普及が進むとともに、シニア層の利用度も年々上昇しています。
総務省の調べでは、70~79歳のインターネット利用状況は平成20年末で27.7%だったものが、平成24年末では48.7%と4年で1.8倍も伸びています。
<参考>進む高齢者のインターネット利用(総務省)

円型で全員が顔を合わせるサロン風の講座
こうしたムーブメントには、ほうぼうで運営されているシニア層を対象にしたパソコン教室が一定の役割を果たしているといえるでしょう。
そこで、今回は、シニア向けのパソコン教室をのぞいてみました。
京王井の頭線・駒場東大前駅近くのビルの一室で、サロン形式の講座を運営している『いちえ会』というパソコン教室があります。
その発足は1994年。まだインターネットが登場する前の“パソコン通信”の時代です。「日本で最初のシニア向けパソコン教室ではないかといわれています(笑)」と代表で主宰者の大林依子さん。

主宰者の大林依子さん
その大林さんは、「『いちえ会』はパソコンを教えて終わりではなく、“パソコンを使って何かやりたい”というシニアのためのアクティブなグループ、という感じです」と説明します。
会則などがあるわけではなく、入会金もありません。出入りは自由で、「ここにきて講習を受けた人が会員」というオープンな運営です。
「忘年会などのイベントには毎回50~60人が集まります。70歳が中心でしょうか。卒業していった人は1000人くらいはいると思います」
旅行前から旅行後まで、パソコンで楽しむ!
『いちえ会』の活動内容は、次のとおりです。

宮島旅行の“旅の記録”をPDFで共有しています
●「火曜悠々」
月3回、火曜日の午後開催される有料の講座。「その時々の新しいネットサービスについてや、メンバーが勉強しておきたいというテーマを選んで教えています」と大林さん。
取材した日は、「エバーノート」や「ドロップボックス」、「ワンドライブ」といったストレージサービスの違いについて学んでいました!
また会員メンバーで出かけることもあり、前回は10人でiPadを持って宮島旅行に行かれたとのこと。その半年前からパソコンで“旅のしおり”をつくり、旅行中は写真撮影などをして、帰ってきてから“旅の記録”づくりを楽しんだそうです。
※「火曜悠々」は現在満席。そのほか「ためになるiPad講座」や「楽しいExcel入門講座」などがあり、参加申し込み可能。
●「悠々サロン」
不定期で行われる、会員が集まっての懇親会。これまで、霧ヶ峰散策に行ったり、講師を招いて浮世絵鑑賞講座を開催したりしています。
●DAISY(デイジー)図書への取り組み
DAISY(デイジー)図書とは、視覚や識字(文字の読み取り)に障がいのある方のためにつくられる規格化されたデジタル録音図書のこと。一種の電子書籍です。この図書をつくる活動に取り組んでいます。

大林さんは『いちえ会』での活動が認められ、日本マイクロソフトから表彰されました
●企業協力
日本マイクロソフトがシニア向けパソコン教室を支援する「アクティブシニアプログラム」におけるテキスト作成や、IT関連企業が手がけているシニア向けユーザーインターフェースの研究に協力しています。
「この歳になってパソコンなんて」と言うシニアこそ!
『いちえ会』の発足の経緯は、次のとおりです。
大林さんは普通の専業主婦でしたが、パソコンの黎明期の頃から親しみ始め、「こんなに面白いものはない」というほどのマニア。
パソコン通信が登場した時、「これさえあれば年を取っても社会とつながっていられる」と確信し、パソコン通信仲間を増やそうとシニア層への指導を思い立ったことが契機となりました。
「それ以来、意欲や向学心の高いシニアばかりが集まり、そうした方たちのニーズに応えようと私も勉強させてもらいながら続けてきました。これからは、『この歳になってパソコンなんて』と言うシニアの方にこそ、お教えしていきたいと思っています。インターネットが使えれば、一人暮らしになっても社会とつながっていられるし、災害などいざという時も心強いからです。ぜひ皆さんにもお勧めします」と大林さんは言います。
パソコンライフを満喫中の方々にインタビュー!
『いちえ会』に参加する会員の方々の声をお届けします。皆さん、思う存分“パソコンライフ”を堪能されています!
パソコンで人生が変わりました!
●井上千枝(いのうえ・かずえ)さん(73歳)
「『いちえ会』に参加して10年以上になります。きっかけは、会社を定年になって、何かすることはないかとパソコンを買ったことでした。パソコン教室を探したのですが、なかなか自分にフィットするところがなく、ようやくたどり着いたのがこの『いちえ会』でした。
そのおかげでパソコンにのめり込み、人生が変わりました。ブログを始めたのですが、書く話題を探そうと外に出歩き始め、文章だけでは味気がないと写真も撮るようになりました。
すると、雲の流れや季節の気配など、それまで見えていなかった身の回りの自然がよく見えるようになったのです! もう楽しくて楽しくて。毎日、カメラを提げて出掛けるようになりました(笑)。おかげで健康的な日々を過ごせています」
みんなで宮島を旅行したことが大きな思い出です
●石本幸作(いしもと・こうさく)さん(78歳)
「10年以上前、私の定年後を心配した妻から勧められてパソコンを買ったことが始まりでした。『いちえ会』の活動では、最近、みんなで宮島を旅行したことが大きな思い出になっています。2泊3日の旅行そのものと、その前後に“旅のしおり”や“旅の記録”をつくったことが非常に楽しかったのです。
旅行の半年前から“旅のしおり”づくりに取り掛かり、みんなで『ああしよう、こうしよう』とワイワイ言いながらつくりました。
旅行では、夜明けの厳島神社に行って、神主さんたちが境内を掃除して清めている荘厳な姿を写真に収めたりしました。そして帰ってからは、こんどは“旅の記録”づくりでまたワイワイ楽しめたのです。
『いちえ会』は、こうやって人生を楽しむためにどうパソコンを使うか、という視点で運営されているのが本当に素晴らしいと思いますね」
高校生の孫たちとパソコンについて対等に話せることが嬉しい!
●石本陽子(いしもと・ようこ)さん(76歳)
「パソコンを始めたきっかけは、息子たちから『これから親父と2人きりになるなら、役所の手続きなどもパソコンでやるようになるから、俺たちに迷惑をかけないように覚えておいて』と言われたことです(笑)。
さっそく買ってきて、最初のうちは息子に教えてもらいました。そして少しずつ覚えていくうちに『いちえ会』を知って夫と参加してみたのです。とても楽しく覚えることができて、どんどんできるようになっていきました。
今では、高校生の孫たちとパソコンについて対等に話していますよ(笑)。それがとっても嬉しいんです。フェイスブックなんかも、私にパソコンをやれと言った息子より先に始め、私が飽きる頃に息子も始めるという逆転現象(笑)。孫とも繋がって、毎日楽しんでいます」
元気でいる間はずっと続けたいと思っています!
●浦木洋子(うらき・ようこ)さん(72歳)
「私も10年ほど前に家族から『パソコンぐらい使えないと困るから、やってみたら?』とパソコン講座のチラシを渡されたことがきっかけでした。それで行ってみたニフティの『ネット塾』を『いちえ会』の大林さんが引き受けていたのです。
そこで手取り足取り教えてもらって『自分にもできる!』と思ってしまい、その流れで『いちえ会』に参加しました。
家族は、私に勧めてみたものの、周りの方に迷惑をかけているんじゃないかとハラハラしているみたいです(笑)。でもとっても楽しくで、月の予定はまず『いちえ会』を入れてから、ほかの予定を決めているぐらい(笑)。
とにかくメンバーが気持ちいい人ばかりだし、大林先生が持ち上げてくれるので、気持ちが高まってくるんです。元気でいる間はずっと続けたいと思っています」
4人の方々が心底楽しんでいる様子が伝わってきますね。皆さんもぜひ、始めてみたらいかがでしょうか。
『いちえ会』のサイトはこちら