
『パラリンコップ』の上に歯ブラシをピタリ装着
“半身不随の人のための歯磨き用コップ”、その名も『パラリンコップ』というユニークな生活便利道具があります。
これは、コップ上部の溝に歯ブラシを固定して片手でも楽に練り歯磨きがつけられるようにし、さらにコップの水で口をすすぐ時、口をつける部分を尖らすことでマヒした口でも水をこぼすことなく口に含めるように工夫したコップです。
この『パラリンコップ』開発したのは、福祉用具の開発や普及活動を手がけているNPO法人たくみ21の理事長を務める原田太郎さん(73歳)。

原田太郎さん
都内で居酒屋のオーナーを務めていた原田さんは、63歳のある朝、脳卒中に襲われます。幸いにも一命は取りとめましたが、左半身マヒとなりました。
「落ち込みましたね。しかし、納得するまで落ちて底に足が着いたら、あとは這い上がるしかありません(笑)。誰のせいでもないからです。そして、まだこうして生きている、なにくそ、と自分を奮い立たせました」
そして、リハビリのために7カ月間入院した地元の病院で『パラリンコップ』の開発を思いつきます。
「マヒで思ったように歯磨きすらできないことが一番辛かったのですが、そのことを看護師さんに話すと『なら、それが楽にできる道具でも考えてみたら?』と言われたのです。その一言で火がつきました」
全国の脳卒中患者100万人のために
退院後、さっそく100円ショップでプラスチックのコップを買ってきて奥様の協力を得ながら加工してみますが、うまくいきません。試行錯誤を繰り返し、ようやく現在の構造に辿り着きます。「自分と同じように困っている人がいるはず」と原田さんは商品化を決意。しかし、商品にするにはいくつもの苦難を乗り越える必要がありました。そして4年がかりでようやく2000個を量産し、2007年にホームページで発売を開始します。
現在まで、月間十数個が売れるというペース。もちろん、ビジネスにはなっていません。

腰の部分と杖をマグネットがついたクリップで留める『スタンド・バイ・ミー』
「入院した病院の売店に置かせてもらったこともありますが、売れないのです。本人には『こういうものに頼りたくない』という、マヒした自分を認めたくない気持ちがあるからです。その気持ちは痛いほどわかります。しかし、それでも買ってくださった人は『いいものをつくってくれてありがとう』と言ってくれます。全国に脳卒中患者は100万人います。1人でも多くの人が心を開いて使ってくれればいい、と気長に構えています(笑)」
そんな原田さんは、このほど第2弾となる『スタンド・バイ・ミー』を開発しました。これは、杖の置き場所がない時に、マグネットがついたクリップで腰に止めておけるようにするグッズ。
「自分が困ったことがアイデアの源泉です。こういうことを考え、ブログやフェイスブックなどで毎日発信することを楽しんでいます。生きているうちは、楽しく過ごしたいですから(笑)」と原田さん。
笑顔が絶えない原田さんから、逆に元気がもらえるような気がしました。
●NPO法人たくみ21
●原田太郎さんホームページ