「高齢者は粗食がいい」は間違い?
食べ物は人の体をつくり、動かすためのエネルギーとなります。食事は運動と並んで健康を左右する最たる要素といえるでしょう。そのことは、もちろん高齢者も同じです。
日本では昔から「粗食は長寿の秘けつ」といった考え方がありました。ですから、「代謝力も落ちている高齢者は食べないほうがいい」と思われる方が多いかもしれません。
しかし、それは誤解です。例えば「高齢者が肉や脂を節制しすぎると老化を早める」ということも、長年の研究でわかってきました。
ADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)という指標があります。これは、歩行や食事、排泄などの「基本的ADL」、買い物や通院、ATMでお金を引き出したりするといった「手段的ADL」などに細分化されます。
高齢者が自立した生活を送るためには、基本的ADLだけでなく、手段的ADLは保たれていなければなりません。
●ADLについて詳しくはこちら
→ADLとIADLの違いとは
では、ADLを保つためにはどのような食事をしたらよいのでしょうか。
高齢者世帯ほど食生活に注意を
「血清アルブミン」という、人間の活動に必須の栄養を運搬する主要なタンパク質があります。
これはADLの保持になくてはならない存在で、この量が栄養状態を表す指標とされているのですが、残念ながら加齢とともに減少してしまうのです。
この量が少ない運動不足傾向の人ほど、心筋梗塞や狭心症などをもたらす冠状動脈硬化性心疾患(CHD)で死亡する率が高いという研究結果もあります。
血清アルブミンはタンパク質でできています。脂肪は活動のエネルギー源です。ですから、効率的にタンパク質や脂肪を摂取できる「肉」を食べることがADLの保持につながり、ひいてはCHDを防ぐことにつながる、といえるのです。
病気にかかるほどの状態でなくても、栄養不足だと活力が衰えてしまいます。そして元気がなくなった結果、抑うつ傾向になってしまうかもしれません。特に問題なのが、高齢者の一人暮らしや高齢者夫婦だけの世帯。日本では高齢者のみの世帯が急増し、今後も増加していく見通しです。
若い世代がいない高齢者世帯の食生活は、どうしても簡素になりがちです。ですから、こうした高齢者世帯ほど必要な栄養に関する知識をつけ、毎日摂取することが必要なのです。
高齢者の必要カロリーは?
厚生労働省は、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(*)を発表しています。
これによると、70歳以上の1日のエネルギー必要量は次のとおりです。
(単位:kcal)
身体活動レベル※ |
Ⅰ(低い) |
Ⅱ(普通) |
Ⅲ(高い) |
男性 |
1,850 |
2,200 |
2,500 |
女性 |
1,500 |
1,750 |
2,000 |
※身体活動レベル
Ⅰ:生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合
Ⅱ:座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、あるいは通勤・買物・家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合
Ⅲ:移動や立位の多い仕事への従事者。あるいは、スポーツなど余暇における活発な運動習慣をもっている場合
食事は規則正しくおいしく食べよう
上記の「日本人の食事摂取基準」では、「70歳以上が1日に必要とするタンパク質の摂取量は、男性60g、女性50g」など、栄養素別・年齢層別の1日に必要な摂取量が示されています。
何をどのくらいの割合で食べればいいかは、農林水産省が発表している「食事バランスガイド」を参照するとよいでしょう。
ただし、高血圧や糖尿病などの持病のある方は、主治医などに食べてもいい食事の内容を確認しておきましょう。
特に一人暮らしの場合は、栄養バランスのよい食事を用意することが困難かもしれません。そのような場合は、配食サービスを利用するとよいでしょう。高齢者の栄養バランスに配慮した食事をとどけてくれるため、自炊をする必要がなく、お弁当の配達員が自宅に来ることで安否確認にもなります。
持病にあわせたメニューを用意していることもあるので、確認してみるとよいでしょう。
そして、大事なのはこうした適切な栄養価のあるメニューを規則正しく、おいしく食べることです。そのためにも、体を動かすことが大切です。筋肉を使うことは、エネルギーを消費して食欲に直結するとともに、萎縮しがちな筋肉を維持することにもつながります。
食欲を増進させ、胃腸の働きをよくするためにも、日頃から体を動かすこと、そして趣味などでほどよくストレスを解消していくといった心がけも不可欠です。