高齢者の肺炎の原因で大きな問題となっているのが「誤嚥(ごえん)」です。高齢者では嚥下(えんげ=飲み込む)機能が弱くなっていることがあります。飲食時にむせやすいだけでなく、安静時や眠っている間に、唾液がわずかずつ気管に入ってしまうことがあります。誤嚥した飲食物の残りかすや唾液に混じった細菌が気管から感染して肺炎を起こす「誤嚥性肺炎」をどのように予防するかを考えます。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
誤嚥とはどのようなもの?
口中の食物や水分を飲み込む嚥下機能はとても繊細で、唇から、歯、舌、喉の奥のさまざまな器官が連動して呼吸と嚥下を分けています。加齢による口腔やのどの筋肉の衰えや、脳血管障害の後遺症や腫瘍などによる神経障害などによって嚥下機能が損なわれると、誤嚥が起きるようになります。人は普段、意識せずに唾液を常に飲み込んでいますが、眠っている間に唾液が気管のほうに微量ずつ流れてしまう「不顕性(ふけんせい)誤嚥」は本人も周囲も気付きにくく、肺炎を起こしてから初めて気付くケースもあります。
嚥下機能が低下しているかどうかは、30秒以内に唾液を3回以上飲み込めるかどうかを調べる「反復唾液嚥下テスト」や、3mlの水を飲み込んで、むせたり呼吸に変化が起きたりしないかを調べる「水飲みテスト」などによって調べることが可能です。
また、介護している家族は、食事中にむせる、常に喉がゴロゴロ痰が絡んだように鳴っている、唾液を飲み込めずに出す、痰が汚れている、食事に時間がかかる、などの様子に気付いたら、誤嚥があるかもしれないと考え、早めに医療者に相談するようにします。
誤嚥性肺炎の予防
誤嚥を起こす原因が、口腔内の傷や病気にある場合は、まずその治療を行います。
健康な人の唾液の中には、1ml中に10の8乗個(1千万個)の常在菌がいるといわれます。ところが、歯周病があったり、口腔内を不衛生にしていると、10の11乗個(100億個)まで増えてしまいます。これが誤嚥によって肺に流れ込んでしまうのを防ぐには、口腔ケア をきちんと行うことが大切です。
誤嚥を防ぐには、食事のときに前かがみの姿勢を取る、食事が食べにくい場合は、柔らかさやとろみなどの見直しをする、などが有効です。口腔リハビリテーションといって、口や舌、喉の筋肉を動かすリハビリテーションもあります。不顕性誤嚥を改善するにも有効です。口腔リハビリテーションは、歯科医院などで指導を行っている場合があります。
一般的な感染予防も忘れずに
ワクチン、誤嚥防止、口腔ケア等とともに、「ごく一般的な感染対策」も忘れないようにしましょう。手洗い、うがい、マスクの着用、咳エチケットなどです。基礎疾患のある人の場合は、基礎疾患の治療を怠らないことも大切です。
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