熱中症は、日常生活の中でおきる病気です。逆に言えば、予防法もまた、日常生活の工夫の中にあると言っていいでしょう。過度に節電を意識するあまり、体調不良を招くことのないように、クーラーや扇風機は必要なだけきちんと使うようにしましょう。また節電するからこそ、生活習慣を見直して暑さ対策を行っていきましょう。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄 / 文:椎崎亮子>
熱中症の予防は初夏から始まる
暑い盛りに起こると思われがちな熱中症ですが、実はそれほど気温が高くなくても起こりえます。気温や湿度の変化に体の反応がついていかず、正常に汗をかくことができずに体温が上がりすぎる場合があるからです。また、普段運動をしない人が、急に戸外で作業やスポーツを行った場合も同様です。暑さに対応できる体をつくる「暑熱順化(しょねつじゅんか)」を行うと良いでしょう。
日中の気温が20度~24度前後で汗をかくことが少ない時期から、戸外に出て歩いたり体操をしたりして軽く汗をかく程度の運動をするようにします。2週間ほど続けると、暑さを感じたときにすぐに汗をかける「暑さに慣れた体」になってくると言われています。
ぜひ、来年は、6月頃から実践してみましょう。
上手な水分補給
以前はスポーツの最中に水を飲んではいけない、水を飲むとかえってバテるなど間違った知識が流布されていました。TVでスポーツ選手などを見ていると、水分補給がいかに大切かが画面からもよく伝わってきます。喉が渇くからと、がぶ飲みするのではなく、少しずつ何度も飲み物のボトルを手にします。これは、普段の私たちの水分補給でも真似をしたいテクニックです。のどの渇きを感じる前にちょっと一口程度のこまめな水分補給を心がけます。
普段の飲み物は水やお茶など塩分も糖分も含まないものでOKです。塩分は食事で必要量をきちんと取るようにします。高血圧などで塩分を制限している場合は、改めて医師に相談しておくとよいでしょう。
運動や戸外での作業を行う場合は、開始する前にスポーツ飲料を飲んでおき、あらかじめ発汗に備えます。運動・作業中は、経口補水液、ハイポトニック飲料を飲むと効果的です。自宅でも簡単に作ることができます。水1リットルに対し塩小さじ1/2(3g)と砂糖大さじ4と1/2(40g)を加えます。レモン汁を加えると飲みやすくなります。
また、睡眠中は一晩にコップ1杯ほどの汗をかきます。高齢者はトイレが近くなるといって寝る前の水分補給を避けたがる傾向がありますが、家族などが注意して、必ずコップ1杯程度の飲み物を飲んでから就寝するよう習慣づけましょう。
水分補給に適さない飲料があります。まずは、ビールなどのアルコール飲料。喉が渇いたときに飲むビールは最高! とはいうものの、アルコールには利尿作用があり、かえって体内の水分を尿として排泄してしまい、脱水症状を引き起こしやすくなります。二日酔いの場合も同様です。
また、甘い清涼飲料水も水分補給には適しません。特に糖尿病がある方では、脱水とあいまって急激な高血糖による障害(*高浸透圧性昏睡と*ケトアシドーシス)が起きる場合があります。
衣服や室内の環境を整える
高齢者では暑さの感じ方が弱くなっていますので、気温や湿度に応じた服装ができていないことがままあります。極端な例では夏場に冬物を身につけているような場合もあります。また、反対にだらしない服装をきらって、襟元までボタンをかけていたりします。本人任せにせず、可能な限り周囲が気を配ることも大切です。
また、就寝時にクーラーを止めたり、防犯意識から窓を閉め切ってしまうなどもありがちです。壁が日中の熱を溜めこみ、夜間になっても冷えないため、クーラーを切ると室温がどんどん上がることもあります。冷えすぎも良くありませんが、適切に温度管理をすることが何より大切です。
最近、天気予報と一緒に熱中症の危険を示す「暑さ指数」を表示していることがあります。住んでいる地方の気温、湿度などの諸条件から、熱中症のかかりやすさを示したものです。感覚に頼りすぎることなく、これらの客観的な情報を参考にして、環境を整えることも熱中症を防ぐ重要なポイントです。
*高浸透圧性昏睡=血糖値が急激に上がったため(1000m/dlを超えることがある)に血液の浸透圧が高くなり、尿の量が増えて強い脱水状態になる。このため脳神経が侵されて意識が悪くなる状態。
*ケトアシドーシス=糖尿病では膵臓から分泌されるインスリンが足りず、血液中の糖をエネルギー源として使えなくなる。代わりに脂肪組織を分解して脂肪酸として利用しようとするが、脂肪酸が肝臓で不完全に代謝されてケトンという物質になる。ケトンによって血液が酸性に傾き、呼吸不全や意識障害が起こる。主にI型糖尿病で起きるが、II型糖尿病でも見られる。
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