せん妄が起きたことは、薬の処方を受けているすべての医療機関・医師や、薬を受け取った薬局・薬剤師、また訪問看護師、訪問薬剤師などと情報共有する必要があります。そのためには、どこの医療機関でどのような処方を受けているかを記録する「お薬手帳」を活用するのが最もよい方法です。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄 / 文:椎崎亮子>
【質問 施設に宿泊した母が、夜は錯乱状態に ~83歳・要介護2】
母は、施設に宿泊したときにかぎって、「幽霊がいる」などと騒ぐそうです。これは認知症の症状なのでしょうか?
(相談者:娘)
母は半年ほど前に認知症と診断されました。家族とともに住み慣れた家で暮らしていますが、私を含め家族全員が仕事を持っているため、ひとりになる時間も長く心配でした。そこで、近くの小規模多機能型居宅介護の施設で、通所・訪問サービスを利用し、私と夫の出張が重なるときなどに宿泊の利用も始めました。ところが、施設で宿泊した翌日…(続きはこちら)
【 上條先生の回答 】前回からの続き *前回(3回目)、2回目、1回目はこちら
薬が原因のせん妄の治療は?
多くの場合、薬が原因のせん妄は前回述べたように「原因となる薬を減らす・中止する」ことで治療とします。
並行して、体内の電解質のバランスの調整や、ストレスとなっている環境を取り除くなども治療として行っていきます。生活上の注意事項が医師からあった場合、訪問看護師やご家族は、ご本人の様子をよく観察しながらその注意事項を守って生活してもらうようにします。
どうしてもせん妄が長引いたり、幻覚などの症状がご本人・家族にとって負担が重い場合は、せん妄の原因となりにくい抗精神薬や抗うつ薬を慎重に使い、症状を和らげていく場合もあります。
「お薬手帳」を使い、薬剤師に相談できる
高齢者の場合、複数の医療機関に並行してかかっていることが多く、重複して薬が出されている場合があると前回で述べました。これは、患者さん側の注意で避けることができる問題でもあります。
医療機関には薬局が隣接していること多いので、医療機関ごとに別々の薬局で薬をもらっている人が少なからずいらっしゃいます。しかし薬は一括して一か所の薬局でもらったほうがよいのです。
なぜかというと、プライバシーの観点から、医療機関同士・薬局同士が、直接、患者さんの医療情報・薬の情報は共有していないからです。
つまり、患者さん側から医師・薬剤師に「こういう薬をほかでもらっています」と伝えなければ、医師・薬剤師は知りようがないのです。
この問題を解決するのが「お薬手帳」です。どこの医療機関のどの医師が、いつどのような処方をしたか、どれぐらいの量の薬を出したかなどの情報を、お薬手帳に記載(シールを貼付)するようになっています。医師・薬剤師は、患者さんが持参するお薬手帳をもとに、薬の相互作用を考えたり、ときには医師と薬剤師の間で相互に情報交換をしたりして、安全に薬が使えるようにしているのです。
薬の情報を一か所の薬局に絞ってしまえば、薬剤師はその患者さんの医療・薬剤情報をしっかりと把握することができ、より安全になります。
複数の薬局を使う場合は、必ずお薬手帳を持参し、薬剤師が薬の管理をしやすいようにすることも、ご本人や家族の身を守るために大切なことなのです。
せん妄に限らず、薬を複数飲んでいて、なにか体調がおかしいと感じた場合は、まずは薬剤師に相談するのもよいことです。お薬手帳がない場合は、家にある薬を袋ごと、すべて近所の調剤薬局(医療機関の処方箋を扱っている薬局)に持参して、相談してみることもできます。薬剤師から医師に相談を上げてもらうこともできます。
次回は、せん妄を起こした場合に、家庭や施設で注意したほうが良いことをまとめます。
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プロフィール
上條内科クリニック院長・医学博士 上條武雄先生
1992年慈恵会医科大学卒業後、2003~2007年まで上野原市立病院内科勤務。2007年から横浜市内の在宅療養支援診療所3ヶ所に勤務の後、2011年に上野原市に上條内科クリニックを開業。地域を支える在宅医として、認知症ケア・緩和ケアなどにも力を入れる一方、アニマルセラピーの普及や、医療・介護が連携しやすい仕組みづくりにも取り組む。忙しく飛び回る毎日の癒しは愛犬のチワワたち(花音、鈴音ともに7歳)。自身でアニマルセラピーの効果を感じる日々。