認知症かもしれない…と家族が思っても、ご本人が否定したり、検査のための医療を拒否したりすることがあります。この「否定や拒否」自体が、認知症の症状のひとつであったり、認知症にともなう心理状態のためであったりします。
ご家族ではどうしてもご本人を受診させられない場合や、ご家族が遠方に住んでいてすぐには動けない場合、地域の「認知症初期集中支援チーム」にSOSを出すことができます。どのような制度で、恩恵にあずかれるのはどんな場合なのでしょうか。
<回答:上條内科クリニック 院長 上條武雄 / 構成・文:椎崎亮子>
【質問 認知症かもしれない祖父をどうやって病院につれていけばよい? ~82歳・介護認定前】
物忘れなどがある祖父。認知症の診断を受けに病院に連れていきたいのに、本人がかたくなに病院へ行くのを拒みます。
(相談者:孫娘)
82歳になる祖父は、地方に一人で暮らしています。最近になって、祖父の友人から私の父(祖父の息子)に「物忘れがたびたびあり、家の中も雑然としている、様子がおかしいので病院へ連れて行ったほうがよい」という電話がありました。仕事の忙しい父は、…(続きはこちら)
【 上條先生の回答 】前回からの続き *前回(1回目)はこちら
認知症初期集中支援チームの支援を受けられるのは、どんな人?
2018年(平成30年)までに日本全国の市町村すべてに設置され、稼働させる取り組みが行われている「認知症初期集中支援チーム」。どのようなものか、厚生労働省のホームページから資料を見ることができます。

*厚生労働省「(参考)認知症初期集中支援チームについて」<クリックで資料を見る PDF>
上の囲みをご覧ください。サービスの対象者について書かれています。
今回のご相談者のケースにも、あてはまることがお分かりになるでしょう。
つまり、この制度は、認知症が疑われる方(軽度認知障害=MCI)や認知症と診断されている方で、必要な医療ときちんと結びついていない方をサポートする制度なのです。なるべく早く、専門の医療・介護のチームが介入することで、その方が必要とする医療や介護とマッチングさせ、安心して暮らしていけるようにしようという体制づくりです。
対象者は、主に一人暮らしで家族のいない方や、地域から孤立してしまっている方(たとえば、いわゆる「ごみ屋敷」のようになってしまっている方など)が当面、介入が急がれるのですが、もちろんご家族のいる方も対象となります。
私の在住する山梨県上野原市でも、今年度から稼働できるように準備を重ね、対象となる方の選定作業を進めているところです(4月中旬現在)。次のステップは、選定された、制度の対象者のところに調査員が訪問して実際のご様子とプランのすり合わせをするという段階です。この原稿がアップされる時点では、まだ実際の訪問は始まっていないかもしれませんが、私は医師として、調査員と一緒に訪問してみようと考えているところです。
どんな医師・スタッフのいるチーム?
さきほどの厚労省の図をごらんください。チームの構成員は「専門医」と「医療と介護の専門職」とあります。当初、専門医とは、認知症の専門家である精神科医、日本精神科医学会認定の「認知症臨床専門医」などが想定されていました。ですが、これらの専門医は患者数と比してとても数が足りません。
そこで、各地域の医師会が「認知症相談医」「認知症サポート医」などの名称で、一定の講習を受けた地域の医師たちを認定する制度ができています。私もそのひとりです。
一緒に活動するコメディカル(医療スタッフ)や介護の専門職も、認知症について一定の知識を持った人たちとなります。認知症の知識のないご家族にも、安心できる情報提供を行えるようになっているのです。
ご家族・当事者が積極的にしくみづくりに参加してほしい
介護や医療に関しては、本当にさまざまな「支援の手」、つまり“制度”が実は存在します。ところが、肝心の、恩恵にあずかれるはずの人々にその情報がいきわたらず、利用されていないことがあります。
逆に、利用しようとしても、その地域では制度が形ばかりで内容が整っておらず、実は使いづらかった、というケースも残念ながらよく聞かれるところです。
もちろん、現場のチームはどこも、国の施策に沿って支援の形を作ろうとがんばっていますが、それが「手探り」の状態であることもあります。
ご家族にお願いしたいのは、ぜひ、「認知症初期集中支援チーム」の名前や情報を得たら、地域包括支援センターや役所などの窓口で「受けられないか」「どのような人が受けられるか」などを聞いてみてほしいのです。

*地域包括ケアシステムの5つの構成要素「地域包括ケア研究所報告書」厚生労働省 平成25年より
「認知症初期集中支援チーム」の図には書かれていませんが、本来は、ご家族こそが最も大事な「チームの構成員」ではないかと私は思います。制度や社会のしくみは、当事者がその「しくみづくり」にかかわってこそ、本当に良いもの、実際的なものになると思います。
私がたびたび話をする、地域包括ケアの図のお皿の部分を思い出してください。
なぜ“本人・家族の選択と心構え”が「一番下」にあるのか。これは、「制度、しくみをボトムアップする者は利用者・当事者の役割である」という意味があるからです。
介護にかかわるしくみは、まだまだ始まったばかりです。ご家族もできる限り情報収集して、世の中の動きに敏感になることが、介護を抱え込まず、うまく乗り越えるための第一歩だと思います。
次回は、実際にどのようにご本人を医療に結びつけるか、がテーマ。認知症の症状についての情報を踏まえてお伝えします。
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プロフィール
上條内科クリニック院長・医学博士 上條武雄先生
1992年慈恵会医科大学卒業後、2003~2007年まで上野原市立病院内科勤務。2007年から横浜市内の在宅療養支援診療所3ヶ所に勤務の後、2011年に上野原市に上條内科クリニックを開業。地域を支える在宅医として、認知症ケア・緩和ケアなどにも力を入れる一方、アニマルセラピーの普及や、医療・介護が連携しやすい仕組みづくりにも取り組む。忙しく飛び回る毎日の癒しは愛犬のチワワたち(花音、鈴音ともに7歳)。自身でアニマルセラピーの効果を感じる日々。