高齢者は、認知症などもあいまって、体に不調があったり変調があっても訴えが出にくかったり、忘れてしまったりということがあります。そのため、あざという形でほかの人が発見しても、その経緯がわからず、「虐待か」といった不安につながってしまうことも時としておこります。
ですが、老人性紫斑についての基礎的な知識をご家族も介護施設の職員もともに共有しておくことで、信頼関係に不安を持つ場面も減ることでしょう。
高齢者ご本人を真ん中に、互いに連携を取り合うことの大切さの中に、このような情報の共有も含まれるのではないでしょうか。
<回答:上條内科クリニック 院長 上條武雄 / 構成・文:椎崎亮子>
【質問 あざがたびたびできる母について ~85歳・要介護3】
認知症があり足腰が弱く介護施設に住んでいる母。ある日腕にいくつものあざがあるのをみつけました。虐待ではないかと心配です。
(相談者:娘)
85歳の母は、認知症があり足腰が弱っていることもあり施設にいます。先日会いに行くと、両腕に赤黒いあざができていました。施設の職員からは、「介助を強く拒否されることがあり、転倒防止のために職員がとっさに腕をつかんだところ、皮下出血してあざになりました」と伝えられました。見るも痛々しい…続きはこちら
【 上條先生の回答 】前回からの続き *前回(3回目)、2回目、1回目はこちら
介護職員が関係していなくても、あざはできてしまう
ご質問者のケースを拝見して、「ああ、介護施設との関係が悪くならないといいなぁ」と思いました。実は私自身も、診察で「こんなあざ、つけられちゃった」というご家族のお話を聞くことがたびたびあります。
「ついちゃった」ではなく「つけられちゃった」。つまり、施設や訪問の介護職員の不注意や、力加減の悪さが、ご家族としては気になっているという発言です。
知っておいていただきたいのは、不注意や力加減が乱暴だったから紫斑ができたわけではないケースがほとんどだということです。それが「できやすい」ということの意味なのです。
介護職員がかかわらなくても、自力で何かをされている間にでも、知らず知らずのうちにできてしまうもの。それが老人性紫斑です。
それがたまたま、デイサービスに行っている間にできた、あるいは施設にいるあいだにできた。ご自宅にいても、ほかのどこにいても、できたかもしれないものであって、そこに介護関係者がかかわったからできたものではない、という認識をもっていただけたらな、と常々私は思っています。
もちろん、今回のケースは、介護職員の方がとっさに腕をつかんだことが直接の原因でした。施設側は、それを正直に話しているわけですので、虐待を疑ったりはしないでほしいなというのが本音です。
「できやすい」と知っていることで、不安を抱かずに済む
年老いた家族を他人に預けているという心の負荷を、ご家族はいつも抱えています。あざに関しても、単に施設側を責めるというよりは、預けているご自身を責めるようなお気持ちも、あるのではないかとお察しします。
ご家族が、老人性紫斑についての正しい知識をお持ちになることで、このような「虐待があったのでは」「接し方が悪いのでは」「施設に預けているから」といったことを考えずに済むという側面があります。
目に見えるあざという形は、確かにつらいものです。ですが、どうかそこから一歩進んで、では、あざができないようにするには、どのようなスキンケアをすればよいのか、施設にもどこまで取り組んでもらうかなど、具体的で前向きな方策を話し合える関係を築いていただけたらと思っています。
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プロフィール
上條内科クリニック院長・医学博士 上條武雄先生
1992年慈恵会医科大学卒業後、2003~2007年まで上野原市立病院内科勤務。2007年から横浜市内の在宅療養支援診療所3ヶ所に勤務の後、2011年に上野原市に上條内科クリニックを開業。地域を支える在宅医として、認知症ケア・緩和ケアなどにも力を入れる一方、アニマルセラピーの普及や、医療・介護が連携しやすい仕組みづくりにも取り組む。忙しく飛び回る毎日の癒しは愛犬のチワワたち(花音、鈴音ともに7歳)。自身でアニマルセラピーの効果を感じる日々。