「在宅での薬との付き合い方」を考えるシリーズは今回が最終回。前回に続き、介護施設や患者さんの自宅を訪問する薬剤師に登場いただきます。
今回は、「自宅での薬の管理」というテーマで、メディスンショップ蘇我薬局の雑賀匡史(さいがまさし)さんに、うかがいました。在宅介護中の方は、ぜひ参考にしてください。
<監修:上條内科クリニック 院長 上條武雄 / 構成・文:星野美穂>
【質問 父の飲み残しの薬を発見 ~85歳・要介護2】
久しぶりに実家に帰ったら、押し入れから大量の薬が出てきました。どうしたら良いでしょう。
(相談者:娘)
先日、久しぶりに実家に帰りました。部屋の掃除を始めたところ、台所から大量の薬が出てきました。さらに押し入れの中からも、段ボールに入れられた数年前の薬が出てきました。父は高血圧と糖尿病を患っています。この薬…続きはこちら
【 質問への回答 】前回からの続き *前回(4回目)、3回目、2回目、1回目はこちら
服用回数や錠数を減らして飲みやすく
自宅で療養されている患者さんでは、相談者のように「飲み忘れにより薬が余っている」ことが少なくありません。特に、高齢者の一人暮らしや、高齢のご夫婦二人の生活では飲み忘れが多くなります。
そのため、雑賀さんは、できるだけ服用回数が少なくなるよう工夫しているそうです。
1日3回服用の薬が処方されていたら、医師に患者さんの生活状況を説明した上で1日1回の薬を提案します。また、必要性が少ない薬は削除して、薬の種類もできるだけ少なくなるようにしています。
というのも、以前、雑賀さんがデイサービスセンターや認知症グループホームの利用者にアンケートを行ったところ、「要介護度1の方では平均6.38種類、要介護度2では平均7.62種類の内服薬を飲んでいる」ことがわかったからです。
しかし、一度に服用可能な錠剤の個数は、要介護度1では4種類で、要介護度があがるにつれ服用可能な個数が少なくなることもわかりました。
「それでもみなさん頑張って飲んでいるのですが、無理は長く続きません。ですから、きちんと薬を服用していただけるように、できるだけ錠剤を減らす工夫をしています」。
患者さんの様子を見て、処方せんを見ていれば、薬剤師なら今必要でない薬はわかるといいます。
たとえば、以前、胃の調子が悪くて出された吐き気止めが、その後もずっと継続されている場合、「患者さんの体調を確認し、問題がないなら医師に電話してその薬は削除してもらいます」。
異なる医療機関の薬をチェックして無駄を省く
また、複数の医療機関にかかっていると、似たような作用を持つ薬が別々の医師から出されていることもよくあります。
内科からは胃の調子が悪いからといって「ムコスタ」を、整形外科からは膝の痛み止めが胃を荒らすのを予防するために「セルベックス」が処方されていたとします。「ムコスタ」も「セルベックス」も、胃粘膜を保護するタイプの胃薬です。この場合はどちらか一方を服用すれば十分効果を発揮するので、もう一方は無駄な投薬となります。
「でも、そんなこと、患者さんはわかりませんよね。薬剤師が別々の医療機関の処方せんを見ることで、気が付き対処ができます。無駄な薬が減らせて、患者さんも服用しやすくなります」。
チーム医療で患者を見守ることの重要性
こうした薬剤師の活動は、薬剤師一人だけの判断で行われているのではありません。主治医をはじめ、訪問看護師、ケアマネジャー、施設スタッフ、ヘルパーなどが連絡を取りながら行っています。
1つの視点だけではしっかりとらえることができない患者さんの変化を、複数の視点でフォローすることが可能です。これがチーム医療のメリットです。患者さんや家族が不安に感じていたり、言いにくいことを、薬剤師から主治医に伝えることもできます。
「病院や施設などと比べて医療者の眼が届きにくいご自宅では、特に患者さんを見守る眼は少しでも多いほうが良いと思います。一度、ご自宅を訪問したらストーブの上のやかんが空焚きになっていて、あわや火事になるところだったことがありました。すぐにケアマネジャーに連絡して、ストーブを片づけて電気カーペットに変えました。そうした“見守り”という視点でも、より多くの職種が入る意義は大きいです」。
薬の問題を解決する薬剤師
もちろん、薬局でも薬剤師に薬の相談をすることができます。
医療機関からもらった薬や、市販薬についての相談以外にも、肌がかぶれにくいテープや、より症状にあった絆創膏など、衛生材料や医療材料についても相談できます。店頭にない製品は取り寄せることもできます。
セルフマネジメントが叫ばれている今、かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師を持つことで健康への負担・不安はより減らすことができるでしょう。
かかりつけ薬局を選ぶコツを、雑賀さんは「まず通いやすいところを選ぶことが大切」と指摘します。そして「できれば担当の薬剤師が変わらないところが良いですね。薬剤師との相性もあるので、いろいろな薬剤師と話をしてみて、相談しやすい薬剤師を見つけるといいと思います」と話しました。
そして、「薬剤師は、問題を解決する方法をいろいろ持っています。薬に対する疑問や不安、飲めないなどの問題は、どんどん薬剤師にぶつけてください」と呼びかけました。
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プロフィール
上條内科クリニック院長・医学博士 上條武雄先生
1992年慈恵会医科大学卒業後、2003~2007年まで上野原市立病院内科勤務。2007年から横浜市内の在宅療養支援診療所3ヶ所に勤務の後、2011年に上野原市に上條内科クリニックを開業。地域を支える在宅医として、認知症ケア・緩和ケアなどにも力を入れる一方、アニマルセラピーの普及や、医療・介護が連携しやすい仕組みづくりにも取り組む。忙しく飛び回る毎日の癒しは愛犬のチワワたち(花音、鈴音ともに7歳)。自身でアニマルセラピーの効果を感じる日々。