入院をしていれば、薬の管理は薬剤師や看護師が行いますが、自宅では患者さん自身や家族が薬の管理を行わなければなりません。とはいえ、毎日のことだけに、なかなか管理が行き届かないのも事実です。
実際、厚生労働省が薬局に対して行った調査でも、9割を超える患者さんに「残薬(飲み残しの薬)」があったという結果が出ています。残薬だけでなく、複数の医療機関にかかっていて薬がダブっていたり、飲み合わせの悪い薬が出ているなどの問題が出て来ることもあります。
在宅における薬との付き合い方について、考えて行きましょう。
<回答:上條内科クリニック 院長 上條武雄 / 構成・文:星野美穂>
【質問 父の飲み残しの薬を発見 ~85歳・要介護2】
久しぶりに実家に帰ったら、押し入れから大量の薬が出てきました。どうしたら良いでしょう。
(相談者:娘)
実家では、85歳の父と80歳の母が二人で暮らしています。私は電車で二時間の土地に住んでおり、小さな子供もいるためなかなかゆっくり里帰りできません。
先日、母が旅行するため、久しぶりに泊りがけで実家に帰りました。部屋がずいぶんと雑然としているので掃除を始めたところ、台所から大量の薬が出てきました。さらに押し入れの中からも、段ボールに入れられた数年前の薬が出てきました。
父は高血圧と糖尿病を患っています。
この薬、どうしたら良いでしょうか。
【 上條先生の回答 】
「残薬」は社会問題にもなっています
在宅医として患者さんの家を訪問すると、大量の飲み残しの薬を見つけることは少なくありません。
飲み残しの薬、すなわち「残薬」は、現在社会問題にもなっています。
厚生労働省の調査で、薬局の薬剤師に「患者さんに残薬を確認した結果、残薬があったと答えた患者はどのくらいいるか」と聞いたところ、「頻繁にいる」、「ときどきいる」を合わせて90.3%の患者さんに残薬があったということがわかりました。
また、患者さんに「処方された医薬品が余った経験があるか」を尋ねたところ、「大量に余ったことがある」、「余ったことがある」を合わせて55.6%、つまり半数以上が、「残薬がある」と答えました。

5億円が飲み残されているという現実
一方、2007年に日本薬剤師会が行った調査では、薬剤師が患者さんの自宅を訪問して薬の管理などを行う「在宅患者訪問薬剤管理指導」の開始時に発見された問題点のうち、「薬の飲み忘れ」や「飲み残し」が4割を超えていました。
また、そうした飲み残された「残薬」の金額を推計すると、年間約475億円になるといいます。つまり5億円近い薬が、服用されずにしまい込まれていたということになります。
医療財政が切迫している現在、これは大きな問題となっています。
勝手な判断は医療事故にもつながります
問題は、経済的損失というだけではありません。
薬を飲み残してしまう理由として多いのは、「病気が治ったと自分で判断して飲むのを止めてしまう」、「外出時に持っていくのを忘れてしまう」、「処方された薬が余っているのに、次の受診日が来て薬をもらってしまった」などです。
診察の時、医師は「薬をきちんと飲んでいる」ことを前提に患者さんのからだの状態を評価します。
たとえば、血圧を下げる薬を処方しているのに血圧が目標とした値まで下がっていなかったら、医師は「薬が効かなかった」と判断して別の降圧剤を追加します。
でも、もし患者さんが自分の判断で薬を止めていたら、どうなるでしょう? 患者さんは、新しい薬を出されて、「やはり血圧が高いのだ」と以前から出されていた薬とともに新しい薬を飲んでしまう。そうすると、薬が効き過ぎて血圧が下がりすぎてしまうこともあるかもしれません。
患者さん自身の健康に関わることになることもあるのです。
薬が余っていたら薬局へ相談しましょう
薬が余ってしまっていたら、主治医に話していただくか、薬をもらった薬局の薬剤師に相談してもいいでしょう。残薬から薬の服薬状況を判断し、医師に相談して薬を調整するのは薬剤師の仕事の1つです。色が変わっていたり、期限が切れていると考えられる薬は薬局で引き取って処分してくれます。
残薬に関わらず、在宅では薬にまつわる問題が少なくありません。
このシリーズでは、在宅における薬の付き合い方や、上手に利用すべき薬局の役割などについてお話ししていきたいと思います。
次回は、実例を通して「薬との付き合い方」を考えてみましょう。
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プロフィール
上條内科クリニック院長・医学博士 上條武雄先生
1992年慈恵会医科大学卒業後、2003~2007年まで上野原市立病院内科勤務。2007年から横浜市内の在宅療養支援診療所3ヶ所に勤務の後、2011年に上野原市に上條内科クリニックを開業。地域を支える在宅医として、認知症ケア・緩和ケアなどにも力を入れる一方、アニマルセラピーの普及や、医療・介護が連携しやすい仕組みづくりにも取り組む。忙しく飛び回る毎日の癒しは愛犬のチワワたち(花音、鈴音ともに7歳)。自身でアニマルセラピーの効果を感じる日々。