「誤嚥性肺炎」という病名を聞いたことがある方も多いと思います。胃に送られるはずの食物が、空気を肺に送るための気管に入り込み、肺に食物が入ってしまうことで炎症を起こしてしまうものです。
「食べる」機能が障害される「摂食・嚥下障害」は、こうした誤嚥性肺炎を引き起こすだけでなく、食事がうまく摂れずに低栄養に陥るなど大きな問題を引き起こします。
なにより、「食べる」という人生における大きな楽しみを失うことにもなりかねません。摂食・嚥下障害の対処法を知り、「食べる」楽しみを続けましょう。
<監修:上條内科クリニック 院長 上條武雄 / 文:星野美穂>
食事のむせが肺炎につながる?
89歳になるCさんは、足が悪く杖を突いて歩いていますが、毎日散歩に出るほどお元気です。食べるのも大好きで、若い頃からハイカラなものが好きだったCさんは、朝食はパンとコーヒーと決めていました。
ですが、半年ほど前から、食事中にむせるようになってきました。特に、コーヒーを飲もうとすると、気管にコーヒーが入り激しくむせるのです。それでも、薫り高いコーヒーが大好きなCさんは、毎朝むせないように慎重にコーヒーを飲んでいました。
ところが、今朝は飲み込もうとしたパンがのどに詰まってしまいました。なんとか吐き出しましたが、まだのどの奥にパンが残っているような違和感があります。声も少ししゃがれてしまいました。
心配した奥さんは、「大丈夫だ」というCさんを連れて、かかりつけ医を受診しました。
一通りの話を聞いた主治医は、「嚥下機能が衰えてきたのかもしれませんね。きちんと対処しないと、肺炎になってしまうこともありますよ。少し、詳しく検査をしてみましょう」と話しました。
摂食・嚥下障害の問題点
嚥下機能とは、口に入れた食物を咀嚼(そしゃく:かみくだくこと)して、飲み込み、胃に送り込む機能のことです。
最近ではより広く、「食べ物を認識して口に運び、口に入れて咀嚼して飲み込む」までを「摂食・嚥下」といい、それが正常に機能しなくなった状態を、「摂食・嚥下障害」と呼んでいます。
摂食・嚥下障害の原因としては、脳梗塞などの脳血管障害や、認知症がありますが、加齢による筋力低下や反射機能の低下によっても起きてきます。
問題となるのは、Cさんの主治医が話していた、肺炎(誤嚥性肺炎)とともに、食事がうまく摂れなくなることによる栄養状態の低下や、食事という大きな楽しみを失ってしまうかもしれないところです。
摂食・嚥下障害の対処法を知りましょう
摂食・嚥下障害は、その方のQOLに関わる、大きな問題です。
嚥下機能をしっかり評価し、その状態にあわせた食事の提供やリハビリテーションを行うことが、できるだけ長く食事を楽しみ、健康にすごしていくためには重要です。
次回から、摂食・嚥下障害の原因や、誤嚥性肺炎予防のための対策、食事の工夫、リハビリテーション、そして少しずつ活動が始まっている地域におけるNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)についても紹介していきます。
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