足腰が弱るのは老化現象だからしかたがない、と考えがちです。確かに筋力はどうしても衰えますが、「老化だ」と思いこむとその陰に隠れた疾患を見逃してしまうこともあります。高齢者が歩きたがらなくなるには、さまざまな原因があります。いくつかの代表的な疾患を理解し、高齢者がイキイキと自分の足で歩けるにはどうすればよいかを考えます。
<監修:上條内科クリニック 院長 上條武雄 / 文:椎崎亮子>
高齢のお父さんの歩き方が遅くなった
Aさんはある日、離れて暮らす実家のお母さんから心配な電話を受けました。
「なんだか最近、お父さんが歩くのがやたらに遅いの。一緒に買い物にでかけても、気が付くと離れてしまっているし、先日は姿が見えないと思ったら途中のベンチにへたり込んで、もう歩きたくないって言うのよ」
Aさんのお父さん、大吉さんは78歳。これまで特に大きな病気をしたことはありません。若いころはスポーツマンだった大吉さんですが、中年を過ぎてからは、たまにスキーに行くぐらいで、あまり運動の習慣がありませんでした。70代になってからはどこへ行くにも車。それでも、近所のショッピングセンターに買い物に行くのは今でも好きで、歩くのが「嫌い」というわけではありません。病院嫌いで、「診てもらったら?」と勧めても、生返事ではぐらかしてしまうだろう大吉さんの顔が、Aさんの脳裏に浮かびます。
お母さんは「お父さんも年で足腰が弱ってきたのよね」と話していましたが、Aさんは近々大吉さんの様子を見に実家に帰ってみようと考えました。
高齢者の歩行に問題が出ることのある病気は?
電話でお母さんの話を聞くだけでは、大吉さんがなぜ歩けなくなってしまったのか、はっきりした原因はAさんにも見当がつきませんでした。そこで、まずは高齢者が歩かなくなると考えられる原因を調べてみることにしました。
(1)足腰の筋肉、骨、関節に問題がある場合
・老化によって筋肉が衰えている、普段の運動量が十分でない→廃用症候群
・どこかに微細な骨折がある→大腿骨頸部骨折、脊椎・腰椎の圧迫骨折など
・股関節や膝関節、足首の関節などが痛む→変形性関節症、リウマチなど
(2)運動をつかさどる脳や神経に問題がある場合
・慢性硬膜下血腫、小さな脳梗塞
・認知症の症状(かなり進行した認知症)
・パーキンソン病(ほかの病気の薬によって起こることもある)
・正常圧水頭症
・神経痛など
(3)心肺機能や内臓、体のほかの部分に問題がある場合
・動悸や息切れがして歩けない→COPD(タバコ肺)、肺炎、狭心症、心不全など
・足の感覚が麻痺→糖尿病による神経障害
・うつなどの精神的な問題
生活の様子、体全体の様子から原因を探る
Aさんは、あまりにいろいろな可能性があるので驚きました。「歩けない」といっても、足腰だけの問題ではなく、心臓や肺、糖尿病などまったく足と関係がなさそうなところに原因があったり、認知症でも歩けなくなることがあると知り、離れて暮らす両親の生活や、普段の様子を改めてしっかり観察しないといけないな、と感じました。
歩かないのは年で衰えているせいと決めつけず、体全体の様子をみてチェックし、やはり一度、大吉さんを病院に連れて行くことを考えよう、とAさんは心に決めました。
次回は、(1)の足腰の筋肉、骨、関節に問題がある場合について、観察ポイントなどを探っていきます。
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