てんかんといえば、赤ちゃんのひきつけのような、子どもが発症することの多い病気というイメージがありますが、実は65歳以上の高齢者が発症することも多い病気です。100人に1~2人ぐらいの割合で患者がいるといわれます。
高齢者の場合は、脳血管障害や脳腫瘍、脳炎などの感染症のあとに発症することが多く、また発作も一般的なてんかんのイメージと違うため、見過ごしてしまうことも多いようです。一見、認知症のような症状もあるため、気にしているご家族も少なくないのではないでしょうか?
<監修:上條内科クリニック 院長 上條武雄 / 文:椎崎亮子>
脳梗塞から1年後に起きた小さな異常
73歳の一郎さんは、1年前に脳梗塞の発作で倒れ、無事回復したものの半身に麻痺が残ったため、自宅で介護を受けています。
ある日の食事中、娘さんが一郎さんの様子がおかしいのに気づきました。スプーンを握ったまま、ぼうっと窓の外を眺めているようです。
「お父さん、何を見ているの?」
娘さんが声をかけましたが、相変わらず一郎さんは黙ったまま、あらぬほうを見ています。なんとなく表情がひきつっているように固まっています。
口もとだけをもぐもぐ動かしていますが、食べ物を噛んでいるのではないようです。
そしてどうも娘さんの声は聞こえていないようです。
娘さんがその様子に戸惑っている間に、ふと一郎さんは向き直り、娘さんの不安げな顔を見て、
「どうしたんだい?」と不思議そうにたずねました。
その後2、3日、一郎さんはなんとなく目の焦点がよく合っていないような、ぼんやりした表情をしていることが多かったのですが、やがて普段どおりに戻りました。
認知症の始まり? 脳梗塞の再発?
娘さんは、翌週訪ねてきたかかりつけ医に、このことを話しました。
「もしかして、父は認知症が始まっているのでしょうか、とても不安です」
かかりつけ医は、一郎さんに簡単な認知症を見分けるテストを行ってみましたが、大きな問題はなさそうです。ここ数ヶ月は、血液検査などの異常もありません。そこで、次のように話しました。
「一郎さんの症状は、認知症とは少し違うようです。新たな脳梗塞が起きていないか確かめるために、脳梗塞を治療した病院でMRIを受けてみましょう」
「父はまた脳梗塞を起こしかけているのでしょうか?」
「詳しくはMRIを撮らなければわかりませんが、実は脳卒中を発症した方は、てんかんをおこすことがあります。はっきり診断がつけば、てんかんはお薬で抑えていけるものです。でも、新しい梗塞などが隠れていてはいけないので、きちんと調べてみましょう」
てんかんと思われる発作のときに気をつけるべきこと
「MRIを撮りに行くまでのあいだに、何か家族が注意することはありますか?」
娘さんの問いに、かかりつけ医は、
「そうですね、もしまた様子がおかしいことがあったら、まずは急に痙攣したり、意識を失うようなことがないか注意して見ていてください。もし意識が悪いようでしたら、念のためすぐに救急車を呼んでくださいね。前のときと変わらないようでしたら、余裕があれば、スマホのカメラでいいので一郎さんの様子を動画に収めておいてください」
それから、万が一、痙攣をおこして倒れても、口にタオルなどを入れたりしないこと、楽な姿勢で寝かせて救急車が来るまで待つように伝えました。
「舌を噛んだりしませんか?」
「もし舌を噛む心配がありましたら、仰向けに寝かせて、手であごをあげて首を軽くそらせるようにしてください。息が楽になり、舌を噛むことを防げます」
次回は、高齢者のてんかんの検査、診断についてみていきます。
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