失禁が続くと、「いよいよオムツか」と考えてしまいがちですが、ちょっと待って。
誰しも排泄に人の手を借りたり、オムツを使うことには抵抗があります。
オムツを使うにしても、ご本人の尊厳を大切にして、導入には細心の注意を払いたいものです。
また、骨盤底筋を鍛える体操をしたり、トイレ周りの環境を見直したりすることも、トイレの悩みの軽減につながります。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:星野美穂>
トイレ周りを見直してみましょう
たとえば、我慢できずにトイレに行く途中で失禁してしまったり、トイレの場所がわからずに失禁してしまう方の場合、できるだけトイレに近い部屋に移動したり、ポータブルトイレを設置することで、失禁が防げることがあります。
また、自分でトイレに行けるけれど尿意が感じられない方の場合は、その方の行動を良く観察し、尿意が起きそうな時間にトイレへ誘導するのも効果的です。
いつ、どこで、どんな状況で排泄があったかなどを記録する「排泄日誌」をつけると、その方の排尿パターンがつかみやすくなります。
畳など濡れて困るところには、ビニールシートを敷いた上から、100均などで売っているブロック状のタイルカーペットを敷くと、さっと拭けて汚れた部分だけ取り換えられるので気が楽になります。
「失禁させない」のではなく、「漏らしちゃっても大丈夫」な状況を作ることも、お世話を楽にするためのコツです。
体操はシーンを決めて継続的に
切迫性尿失禁や腹圧性尿失禁、また前立腺がんなどで前立腺を摘出してしまったあとの尿漏れには、骨盤底筋体操も勧められています。
骨盤底筋は、骨盤の底にあり、膀胱を下から支え、尿道や肛門を引き締める働きをしている筋肉のことです。自分の意志で動かすことができる筋肉のため、鍛えることができます。
<骨盤底筋体操のやり方>
●からだの力を抜き、肛門、膣をからだの中に引っ張り込むようなイメージで締めていく。
●そのまま5つ数える。これを何回か繰り返す。
●お腹や肩などには力を入れない。
●イメージできないときは、トイレでおしっこを途中で止めてみて、その感覚を覚えておく。体操では、その感覚をイメージする。
●立っていても、腰かけても、横になっていてもよい。
●1日に何度も行ったほうが効果的。TVのCMの間に行う、散歩の途中の信号待ちで行う、寝たきりの方にも、朝、夕の歯磨きの前に声をかけて行うなど、体操するシーンを決めておくと長続きしやすい。
体操の仕方などがわからないときは、理学療法士や泌尿器科の看護師に聞いてみましょう。
下記のサイトにも、詳しい体操の仕方が紹介されています。
ユニ・チャーム 気軽に骨盤底筋をきたえる カンタンお部屋トレ!
オムツ導入は慎重に
失禁が多くなってくると、オムツの使用が視野に入ってきますが、安易なオムツ導入は注意が必要です。
トイレの問題は、その方の自尊心に大きく関わる問題です。失禁により、想像以上の精神的ダメージを受けていることもあります。
オムツを勧める際も、気落ちしている本人のプライドを傷つけないように心掛けましょう。
大人用オムツや失禁対策グッズも今はさまざまな種類が発売されています。一見それとはわからない失禁パンツや下着に当てるだけの尿取りパッド、下着のようにはけるオムツなどがあるので、本人が抵抗のないものから取り入れていくと良いでしょう。
また、防水性が良く肌触りのよい防水シーツも販売されています。万が一、夜間に失禁があっても敷き布団は守られるため、家族や介護者の負担は軽減されます。
トイレの悩みは、ご本人にとっても、周りの人にとっても辛いものです。
ただ、加齢により避けられない問題でもあります。
医師や看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどは、より快適に、楽に生活できるようにケアする手段を知っています。また、長年介護を行ってきた人のなかには、良いアイデアを持っている人もいるはずです。
1人で悩まずに、周りに相談してみましょう。
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