多くの介護の悩みのなかでも、特に良く聞かれるのが排尿の悩みです。「トイレに間に合わない」、「夜中に何度もトイレで起こされる」、「失禁があるのにオムツを嫌がる」など、排尿に関する悩みは多岐にわたります。
一般的に、加齢に伴い膀胱が小さくなり弾力性も衰えることから、高齢になると排尿の障害が起こることが増えてきます。
男性では前立腺が肥大して尿道(尿の通り道)を圧迫して尿が出にくくなったり、尿道がたるんで折れ曲がった部分に尿が残ってしまい、排尿後に知らないうちに尿が垂れてしまうことがあります。
女性も尿道の位置が変形したり、排尿をコントロールする筋肉が弱くなったりして、咳やくしゃみなどお腹に力がかかったときに尿漏れが起きやすくなりがちです。
一方、いわゆる「年のせい」だけでなく、排尿の障害のかげに病気が隠れていることもあります。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄 / 文:星野美穂>
尿失禁の原因は過活動膀胱
Aさんは、脳梗塞で右半身に軽い麻痺のある母親の介護をしています。母親が病院でリハビリを終え自宅に帰ってきたころから、トイレの訴えが多くなりました。それまで、4~5回だったものが、1日に10回以上もトイレに行きたがるのです。
便器にしゃがんでも尿が出ないこともありますが、トイレに間に合わず、廊下でもらしてしまうことも少なくありません。「いよいよオムツか」と感じたAさんですが、念のためかかりつけの病院の泌尿器科に母親を連れて行きました。
尿検査や超音波検査のあとに、医師は「過活動膀胱」という診断をくだしました。これは脳梗塞や脳卒中などにより脳と膀胱(尿道)の筋肉を結ぶ神経の回路に障害が起きることで起こる病気です。
飲み薬による治療と、排尿をコントロールする筋肉を鍛える体操を取り入れたところ、母親のトイレの回数も減り、トイレも間に合うようになってきました。
排尿パターンをつかんで、トイレコントロール
認知症を患うBさんは、歩くことはできますが自分で尿意を伝えることができません。昼間は紙パンツ、夜は紙おむつを使っていますが、夜中に紙おむつを外してしまいパジャマも布団もびっしょり濡れてしまっていました。
自分で紙おむつがはずせないようにガムテープで固定したり、ズボンが降ろせないつなぎのパジャマを着せたりしましたが、朝になると紙おむつを外してしまっています。
家族は毎日洗濯に追われ、臭いにも悩まされていましたが、この悩みを相談したケアマネジャーから「何時間ごとにおしっこをしているか、おむつを外すのは何時頃か、観察してみてください」とアドバイスを受け、Bさんを観察。
排尿のパターンをつかんで、その時間ごとにトイレへ連れて行ったり、夜中に一度起こしてポータブルトイレを使ってもらうことで、「おもらし」がほとんどなくなりました。
多方向から高齢者の排尿問題を考える
排尿の問題は、介護者側の負担も大きく、介護される側も恥ずかしくプライドを傷つけられる、非常にデリケートな問題です。解決のためには、医療的な介入のほか、生活環境の見直しや、便利なグッズを使うといったさまざまな工夫が必要です。
高齢者のトイレの問題をどう考え、どのように解決するか、さまざまな方向から考えていきたいと思います。
次回は、排尿障害の原因について取り上げます。
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