脱水、というと、夏場の熱中症での脱水のイメージのほうが強いですが、実は冬も、脱水を起こしやすい時期です。高齢者は脱水になりやすく、特にこの時期流行するインフルエンザや胃腸炎は脱水を起こす原因になります。今回は脱水にいち早く気づくためのサインをテーマにします。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄 / 文:椎崎亮子>
脱水の定義は?
インフルエンザの流行が各地で続いています。上條先生が主治医を務める施設の患者さんにも、インフルエンザの発症があり、12月~1月にかけて忙しい毎日でした。ある患者さんは、空気の乾燥と
脱水のために気管に痰がこびりつき、あわや窒息という事態になったそうです。
脱水とは、平たく言えば、摂取する水分と排出する水分のバランスが崩れて体内の水分量が不足し、それに伴って体液中の電解質(塩分や各種ミネラル)のバランスが崩れている状態です。人間の体は血液、体液だけでなく、からだの細胞一つ一つが水分を含んでいます。成人の体は約60%が水分です。高齢者はより体内の水分量が少なく、約50%程度になっています。体重50キロの高齢者の体内には、約25kgの水分があることになります。
高齢者が脱水に陥るメカニズムは?
私たちは、すべての食物と飲料水から水分を得ています。また、エネルギー代謝の過程でも水分(H2O)が得られます。その量は成人で1日約2500ccです。
一方で、水分は、尿、便、汗、涙などとして排出されます。呼気(吐く息)の中にも水分は含まれます。目には見えませんが、皮膚表面からも常時水分が蒸発しています。この量が、得られる水分量と釣り合っていれば脱水にはなりません。
しかし、病気にかかるとこのバランスは容易に崩れてしまいます。
たとえばインフルエンザで発熱すれば、その分呼気や皮膚から出ていく水分が増えます。その一方で食欲が落ちますので、摂取できる水分量が減ります。感染性の胃腸炎では、下痢・嘔吐で大量の水分が出ていきますが、食べる・飲むはかなり困難になります。
また、糖尿病で高血糖になった時は、血液中から水分がどんどん出て行ってしまい、これにともない増えた尿中に大量の電解質も逃げてしまいます。
冬場の乾燥と暖房に注意
また、冬場は空気が乾燥しているため、病気ではなくても、皮膚や呼気からの水分蒸発量が増え、脱水しやすくなっています。
さらに、長時間こたつに入っている、エアコンや電気ストーブをつけっぱなしにしている、厚着をしすぎてかえって汗をかくなど、高齢者にとっては脱水しやすい条件がそろっていることになります。
高齢者の脱水のサインは?
脱水がおきたときの症状を下記に記します。下に行くほど重症になります
(1)のどの渇きを訴える(高齢者では喉の渇きを感じにくくなっていて、訴えないことも多い)
(2)口腔内が乾燥して口臭がする、口腔内の不快感を訴える
(3)皮膚表面がかさかさした感じになる
(4)痰がからんで切れにくくなる、咳が多くなる
(5)脇の下や鼠頸部の皮膚がカサカサした感じになる
(6)手の甲の皮膚をつまみあげると、すぐに元に戻らずゆっくり戻る
(7)目が落ちくぼんで見える
(8)尿の量があきらかに少ないか、尿が出ない
(9)傾眠(ウトウトと眠ってばかりいる)状態になる
(10)涙が出ず目が乾いた感じになる
(11)血圧が下がり脈が弱く・速くなる
経口で無理なく水が飲める合は経口補水塩(OS-1など)を摂取しますが、もし水を飲めない、飲みにくい状況があれば、医療者への連絡が必要です。
次回は、点滴などでの脱水の治療についてみていきます。
●熱中症による脱水にも気をつけてください →「高齢者の熱中症」
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