少し古い資料ですが、高齢者の家庭内事故における死亡原因のトップはやけどによるものであったという報告が、2008年9月に国民生活センターから発表されています。
高齢者のやけどは重症化、深刻化することが多く、死亡につながることもあります。
高齢者に多いやけどの原因から、やけどを防ぐ方策について考えました。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄 / 文:星野美穂>
高齢者の家庭内死亡事故、4分の3がやけど
国民生活センターの危害情報収集協力病院20施設から集められた高齢者の家庭内事故を分析した報告書によると、やけどは高齢者の死亡事故16件中うち12件で、4分の3を占めていました。
この12件のうち、6件は浴槽で熱い湯に浸かったことによるもの、5件は着衣着火、1件は低温やけどから合併症を起こしたものです。
報告書では、こうした事例から「高齢者のやけどは重症化、深刻化することがわかる」と述べています。
この報告書に掲載されている具体的な事例を記載します。
●81歳 女性
麦茶を沸かしたやかんを倒して下半身に浴びてやけどした。Ⅲ度のやけどで重症。
●71歳 女性
ロウソクの火が衣服に燃え移り熱傷で死亡。
●79歳 女性
味噌汁をつくろうとしてガスコンロの火が寝巻に着火し全身熱傷で死亡。
●75歳 女性
自宅前で不要物の整理のため焚き火をしていて着衣に引火し熱傷のため死亡
家庭内でのやけどを防ぐための工夫
●着衣着火を防ぐ
コンロの火や仏壇のロウソクの火が服に引火する着衣着火は、重いやけどや死亡につながります。
台所は炎のでないIHクッキングヒーターにしたいところですが、簡単に切り替えるのは難しいもの。
まずは火を扱うときの服装に気を付けるようにしましょう。
生地の表面が毛羽立っている衣服は、毛羽に火が付き瞬間的に火が走る「表面フラッシュ現象」を引き起こします。火を取り扱うときには、生地の毛羽立ちやすいセーターやフリースなどは避けましょう。また、そでやすそが広がっている衣服は、火が付いても気が付きにくいものです。火を使うときには、まず衣服を確認してもらうようにしましょう。
燃えにくい不燃性の布でできた割烹着や、アームカバーなども市販されています。用意しておいて、料理をしたり火を使う場合は必ずそれを身に着けてもらうのも良いでしょう。
●風呂場でのやけどを防ぐ
高齢者は、皮膚の感覚が鈍くなり、温度や痛みを感じにくくなります。お風呂も熱めのシャワーを浴びてしまったり、追い炊きをしているうちにやけどするほど熱い湯になってしまい、入浴後に肌が真っ赤に脹れてやけどに気が付くこともあります。
また、風呂場でつまずいた拍子に、熱い湯船に落ちてやけどをしたという事例もあります。
風呂場での事故も、死亡につながる重大なものが多くなります。
浴槽の湯温は、高齢者が入る前に家族や介護者が適温かどうか確認しましょう。高齢者が入浴中は追い炊きせず、入浴中はこまめに様子をうかがうなどの注意が必要です。
●仏壇のロウソクにはLEDのものを
仏壇のロウソクの火が衣服に引火したり、線香の火が火災につながるといった事故もあとを絶ちません。
最近は、LEDを使った仏壇用のロウソクや線香も市販されています。なかには、炎がゆらめいて本物のロウソクそっくりなものもあります。
やけどや火災防止のために、こうしたグッズを利用するのも良いでしょう。
●やかんは使わない
やかんによる事故も少なくありません。湯を沸かす時はやかんを使わず、電気ポットを利用するようにしましょう。ただし、電気ポットを床に置いておいて、つまずいて倒してしまいやけどするという事故も多いです。
電気ポットは床に直置きせず、コードも動線の邪魔にならない場所になるよう、置き場所を工夫したいものです。
次回は、低温やけどを取り上げます。
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