体内の異物や病原体を排除するための大事な機能といっても、咳はやはり不快なもの。少しでも楽にしのぐために、家庭でできる緩和の方法を考えました。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文・椎崎亮子>
薬の見直しを医師・薬剤師にお願いする
前回および前々回で、ACE阻害薬が関係する慢性の咳について触れました。ACE阻害薬は、高血圧や腎臓病など、さまざまな病気で処方されます。長期にわたって使う場合、慢性の咳という副作用が出ることがあります。咳が長引く場合、念のため持病の薬について医師や薬剤師に確認してみるとよいと思います。
また、ACE阻害薬は、「咳が出る副作用」を逆手にとって、咳反射や嚥下反射の衰えを回復させるために使われることがあります。医師・薬剤師の説明を良く聞き、作用が強すぎる場合は遠慮なく相談することが大切です。
このほか、副作用が咳の原因となる薬に、痛み止め(非ステロイド性鎮痛剤)があります。「アスピリン喘息」などとも呼ばれ、鎮痛剤の過敏症のひとつです。痛み止めを飲んだり、痛み止めの入った湿布薬や目薬などを使った後に、鼻水・鼻づまりや激しい咳が起きたときは、使用を中止して医師・薬剤師に連絡してください。
タバコは止める
いわゆるタバコ肺(COPD=慢性閉塞性肺疾患)は、長期にわたる喫煙でおこります。タバコの煙には、気道の粘膜を刺激する物質が多く含まれるため、長年タバコを吸っていたとしても、止めることで咳の症状は軽減されます。また、家族が喫煙者の場合や外出時などには、タバコの煙を浴びないよう、注意を払うようにしましょう。
以下のリンクから、厚生労働省の禁煙支援マニュアルがダウンロードできます。より効果的な禁煙の支援策が盛り込まれています。
厚生労働省 禁煙支援マニュアル
タバコでなくても、物を燃やす煙は、含まれるさまざまな微粒子が気道粘膜を刺激するので、焚き火などは避けるようにしましょう。
● COPD(タバコ肺・慢性閉塞性肺疾患)は、こちらで詳しくご紹介しています
就寝時に咳が楽になる姿勢
湿性の咳では、鼻水や、気道粘膜からの分泌物が気管の入り口を刺激し、咳をひどくしています。休むときに、ベッドの頭側を少し高くしたり、枕やクッションなどを利用して、上体を少し高くすると、分泌物が自然に嚥下され、気道を刺激しにくくなります。頭だけ高くしないよう、上体全体をゆるやかに高くすることがポイントです。
加湿器の利用
風邪などのウイルスは湿気に弱いため、感染予防の観点からも、室内の空気を加湿することが効果的です。湿度がおおむね60パーセント程度になるように調節すると、体感温度も上がり、楽になります。ただし、加湿器は内部を清潔に保たないと肺炎の原因となる菌や微生物、カビなども発生するため、定期的にクリーニングすることが大切です。
温かい飲み物やのど飴の効果は?
風邪に良いとされる温かい飲み物(各家庭によって、スープやハーブティ、生姜湯、大根のおろし汁、ねぎの味噌汁、蜂蜜湯などなどさまざまです)は、薬としての効果はありませんが、体を温めてリラックスすることで、胸やのどの筋肉の緊張をほぐし、鼻づまりの解消にも役立ちます。また吸い込む空気を温めて気道への刺激を和らげる効果が期待できますので、結果的に咳を緩和するのに役立ちます。
のど飴は、ハーブやカリン、生姜、ミントなどの味で、のどがすっきりする気分になります。薬効などはありませんが、飴を含んでいることで唾液が出て痰が切れやすくなること、口を閉じているので乾燥を防げることなどがメリットです。ただし、嚥下機能に問題がある人、認知症のある人では、飴をのどにつまらせることもありますので十分注意が必要です。
トウガラシやワサビなどの刺激物やアルコール、冷たすぎる飲み物は、咳を悪化させますので避けるようにしましょう。
咳を緩和するツボ
東洋医学のツボには、咳を鎮める効果があるといわれるものがあります。
・天突(てんとつ)=左右の鎖骨が合わさる、首元のくぼみの真ん中です。指の腹で下側へ、骨を押すように指圧します。痛くない程度に力を入れ、5秒ぐらい押して放すことを繰り返します。
・定喘(ていぜん)=首の後ろの付け根の、骨が飛び出したところの真下のくぼみから、左右に指1本ずつ離れたあたりです。同じく、痛くない程度に指の腹で5秒ぐらい押して放すことを繰り返します。
・孔最(こうさい)=腕の内側で、肘の折り目から手首までの長さの、肘側から3分の1ぐらいのところの少し外側です。押すと気持ちのいい痛みがある点を探します。同じく指の腹で5秒ぐらい押して放すを繰り返します。
いずれの方法も、咳を根治させるためのものではなく、少しでも楽になるための「工夫」といえます。咳の原因となっている病気の治療とともに、気持ちよく過ごすことを目的にしています。
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