すっかり涼しくなって、空気が乾燥してきました。冬によくみられるのが、乾燥による皮膚トラブルです。特に皮膚の薄い高齢者は、乾燥しやすくかゆみの原因ともなりやすいものです。
「かゆみなんていつものこと」と放っておくと、単なる乾燥から湿疹にまで悪化してしまい、治るまでに時間がかかることもあります。
冬のかゆみの原因と、予防法を知りましょう。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:星野美穂>
かゆみでパッチ薬もはがしてしまう
軽度の認知症を持つ87歳のAさん。以前大腿骨を骨折し、今は自宅で寝たり起きたりの生活です。
秋口になり少し涼しくなってきたころから、皮膚が乾燥してかゆみを訴えるようになってきました。寝る前に保湿クリームを塗っていますが、あまり改善はみられません。
あまり痒がるので、お嫁さんは毎日熱いタオルで全身を拭いています。また熱いお風呂が大好きな江戸っ子のAさんは、週1回の訪問入浴を楽しみにしています。熱いお湯につかり、さっぱりとする様子ですが、湯上りが特にかゆみが強いらしく、気が付くと足の脛やお腹をポリポリ。お嫁さんが掻かないように注意しますが、だんだん皮膚が赤くなって湿疹が出てきてしまいました。
夜、からだが温まると余計に痒くなるらしく、夜中に起き出して掻きむしることもたびたびあります。
また、困ったのは、認知症の薬として毎晩貼っている貼付剤(パッチ薬)です。
貼ったところがかぶれてしまい、場所を変えて貼っているうちに、貼れる部位がなくなってきました。貼っておいても、夜中に痒くなると無意識にはがしてしまうようです。
困ったお嫁さんが、ようやく医師に皮膚の状態を相談したのは、全身のあちこちを掻き壊し、パッチ薬を貼る部位がなくなったころでした―。
高齢者に起こりやすい、乾燥による皮膚トラブル
秋から冬にかけて、ある程度の年齢なら皮膚の乾燥を誰でもが感じる季節です。
特に高齢者は、からだの新陳代謝が落ち、皮脂腺から分泌される皮脂(皮膚の脂)の量が減少するため、より乾燥しやすくなります。そして皮膚が乾燥すると、肌着のすれやクリームなど化学物資からの刺激に敏感になり、かゆみを生じやすくなります。
一種の生理的な現象といえますが、こうした状態について「老人性乾皮症」または「老人性皮膚そう痒症」という病名がついています。
かゆみの悪循環に陥る前に
老人性乾皮症の時点なら、生活習慣の改善や適切なスキンケアと治療によりうまくコントロールできる場合が多いものです。ところがこれを掻きむしって掻き壊してしまったり、湿疹化させてしまったりすると、薬による治療を要する皮膚疾患(皮脂欠乏性皮膚炎や皮脂欠乏性湿疹)となります。
「かゆみなんてよくあること」と軽くみていると、かゆいから掻く、掻くから悪化する、さらに掻き過ぎてしまう…という悪循環に陥ります。
正しいスキンケアを知りましょう
そうならないためには、早めのスキンケアが重要です。でも、このスキンケア、意外と正しい方法が知られていません。上記のAさんの例でも間違ったスキンケアで、悪化につながるものもあります。
正しいスキンケアでしっかり保湿し、皮膚トラブルを防ぎましょう。
そして、悪化する前に、医師に相談を。
次回から、冬に多く見られるかゆみについて、その原因と正しいスキンケア方法、保湿に使われる薬の種類、悪化してしまった場合の治療についてみていきます。
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