前回まで、高齢者が食欲不振になったとき、家族が観察してかかりつけ医に相談するポイントを4つ取り上げてきましたが、今回は、「本当に加齢で食べられなくなっている場合」を取り上げます。
食べてくれない、という状態は、家族にとってとてもつらいもの。でも、ご本人は食べなくても元気、それが「正常な」姿という場合があります。そんなときの心の持ちようと、対処法を考えます。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
世界一の長寿、「かまとバァちゃん」に学ぶ
2003年に亡くなってしまわれましたが、鹿児島県に住んでいた「かまとバァちゃん」こと「本郷かまと」さんは、ギネスブックにも認定された世界一の長寿者です。116歳まで生きました。110歳のときに寝たきりになってから、2日間眠り続け、2日間起きている、という不思議な生活リズムになったことが知られています。かまとさんには「眠りながらでも嚥下ができる」力がありました。そのため、ご家族は、眠ったままのかまとさんに食事を食べさせることができていました。
けれども、上條先生は、「普通は眠っていらっしゃる方を無理に起こして食べさせる必要はないんですよ」と話します。
「人間は長寿になると、24時間の体内リズムが崩れ、長い時間眠りっぱなしになる方も出てきます。どうしても食事が取れませんので、ご家族は非常に焦って、無理に起こして食べさせようとする人もいます。ですが、必ずしも若い健常者の生活リズムを、無理に当てはめる必要はありません。加齢による生理的な変化である場合は、その人の変化に周りが合わせてあげることも大切です」
2~3日を平均して様子を見る
「1日3食」という、健康な人の生活リズムに当てはめると、食欲不振と言えるほど食事回数が少ない。でも2~3日を平均すると、しっかり食べられている日もあり、極端な体重減少や脱水がなく、ご本人がつらくない状態である――こういう場合は、それはそれでよいと上條先生は考えています。
「明らかに体に異常があったり、どこか辛い症状があったりするのでしたら、治療が必要かもしれません。ですが、ご本人が楽であれば周りが深刻になりすぎてもかえってつらいですよね。主治医や介護スタッフなどと連携をとりながら、その人が最後まで、その人らしく食生活を送れるようにサポートしてあげてください」
胃ろうも選択肢のひとつ
嚥下機能が衰えた方、どうしても食べてもらえない方には、胃ろうという選択肢があります。賛否があり、拒否感を持っている方も少なくないでしょう。
胃ろうが誤解されている点は、「つけたら、一生口から何も食べられなくなる」と思われていることです。胃ろうは、栄養摂取を強力に補助できる措置ですが、口からは自由に摂食できます。胃ろうがついていても、何か食べたいと思えば好きなように飲食はできるのです。
本来の胃ろうの目的は、病気や嚥下障害などによる、一時的に口から食事を摂ることが困難になっている状況を、治療やリハビリで改善する間に、体力や消化能力が落ちてしまわないよう、継続的に胃から栄養食を入れ、消化吸収機能を働かせ続けることにあります。したがって、食事を摂れない状況がなくなれば、胃に通した管を抜く処置も可能です。
鼻から管を通して栄養物を胃に送る「経鼻胃管」は、設置に手術は必要ありませんが、胃ろうとは違い、誤嚥の危険性が高いため、口からの食べることはほとんどできなくなります。
ご本人の意思がはっきり確認できない場合、選択をするご家族の心の負担は小さいものではありませんが、選択肢の一つとして、かかりつけ医などに話をよく聞いておくことで、不安を解消できるかと思います。
「食べる」ということは、人が生きていく上で大いなる楽しみであり、命の原動力にほかなりません。介護を受ける高齢者の食事に関しては、「プロが教える食事・栄養」で食事介助の実践について、また「高齢者の食事・レシピ」では、食欲が落ちた方にもおいしそうと思っていただけそうなレシピがたくさん掲載されています。参考にしてみてください。
●「高齢者のかかりやすい病気・疾患」の一覧を見る
●「在宅医 ドクター上條に聞く」のコーナーをすべて見る