前回、高齢者が食欲不振になったとき、家族が観察してかかりつけ医に相談するポイントとして、(1)体調に変化、異常がないか(2)飲んでいる薬や、受けている持病の治療などに変化がないか―の2点をみていきました。
今回は、(3)精神的に変化、異常がないか(4)生活習慣に変化、異常がないか―をみていきます。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
(3)精神的に変化・異常がないか
こうした場合に一番多いのが、うつ状態による食欲不振です。引っ越しやその他の環境の変化、親しい人やペットとの生別・死別が、うつ状態を引き起こしていることがあります。ご本人が意識していなくても、知らず知らずのうちに孤立感、孤独感を深めている場合もあります。
思いあたる環境の変化があった場合、食事を無理強いするのではなく、ご本人の意思を確認し、感情を整えられるよう寄り添うことで、徐々に食欲も戻っていきます。
ただ、うつ状態の中に、微小な脳梗塞などの脳血管障害が潜んでいる場合もあります。また、うつ病(治療が必要な状態)に至っている場合や、認知症が原因のうつ状態もあります。うつ状態を引き起こす、または思い当たる環境要因がない場合や、様子を見ても回復してこない場合は、精神神経科の医師に相談する必要があるかもしれません。
高齢者のうつ状態については、こちらの記事もご参照ください。
認知症の進行による食欲不振
前々回紹介したナツさんの例のように、認知症の進行が食欲不振を引き起こすことも少なくありません。認知症が進行すると、脳の視床下部の食欲中枢の機能が低下し、お腹が空いても「食べたい」という指令が出なくなってしまうことが大きな原因です。また、食べ物を食べ物と認識できなくなったり、脳血管性の認知症の場合では、「食べる」という行動を忘れたりしてしまう、箸の使い方を忘れてしまうといったこともあります。精神的に不安定で、食事に集中できない場合もあります。そうした際は、認知症の改善薬や、向精神薬が功を奏する場合もあります。
また、良く言われることですが、介護者が急いで食べさせようとして、スプーンで無理に食事を押し込むといった行動が、高齢者の心身に負担をかけている場合もあります。
(4)生活習慣に変化、異常がないか
介護を受ける高齢者の生活習慣は、徐々に変化していくものです。特に、運動習慣はその機会が失われていくことのほうが多いでしょう。毎日のように散歩に出ていた方が歩けなくなってしまったり、寝たきりになってしまったり、といった運動量の低下は、食欲にも関わってきます。ご本人の状態に合わせ、その時に可能な運動を取り入れるといったことで、食欲が回復することもあります。
また、食卓につくかわりに、ベッドの上で食事をする、など、介護をすることになった場合には「当然の」変化も、ご本人にとっては大きな問題であることもあります。
運動習慣・量の変化が、便通に影響している場合もあります。便秘の原因が運動不足や筋力低下にある場合も、食欲不振が現れてくることがあります。
睡眠の変化も、食欲と大きく関係します。認知症の進行とも関係しますが、一日中うつらうつらする(傾眠)状態になって食事をさせづらくなり、食事時間が不規則になることも、よく介護をする家族の悩みとなっています。
これらは、ある程度医療で解決できることもありますが、介護の方針などで解決していく度合いのほうが大きいことでしょう。可能であればご本人を交え、ご家族と介護関係者、医療関係者で、解決案を探ってみるのが良い方法かもしれません。
次回は、食欲不振だと思っても、食べなくても心配ない場合がある、ということについてお話していきたいと思います。
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