嘔気(吐き気)・嘔吐は、さまざまな疾患でおこる症状ですので、ときにはそれが重篤な病気のサインの場合もあります。そのため、かかりつけ医の判断がとても重要です。
危険な兆候を除外でき、よくある胃腸炎と判断されれば、自宅でケアすることが可能です。前回に引き続き、今回は、Aさんのかかりつけ医がどのような判断をしていたのかを探ります。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
重大な病気が隠れていないか医師が判断する
Aさんから連絡を受けたかかりつけ医が、Aさん宅に到着しました。
Aさんは気持ち悪そうにはしていますが、すでに落ち着いていて、意識もはっきりしていました。かかりつけ医はAさんの胸やお腹の音を聴診し、血圧を測定しました。血圧は普段と変わりありませんでした。
医師「やはり、感染性の胃腸炎が疑われますね。ほかの重い病気の可能性はほぼなさそうです。今夜一晩は、吐き気と下痢が続いて、熱も出るかもしれないのでお辛いと思いますが、水分は飲めているようですので、暖かくして安静にしていてください」
息子さん「父は年も年ですし、本当に他の病気は大丈夫でしょうか」
前回、かかりつけ医が電話で息子さんに聞いたのは、嘔吐とともに、次の症状がないかどうかでした。
・頭痛や、ひどいめまいがありませんか?
・胸・みぞおちあたりの強い痛みを訴えていませんか?
・呼吸が極端にゆっくりになったり、止まったりしませんか?
・最近、かかりつけ医以外で、薬を処方されて服用していますか?
・吐いたものに血は混じっていませんか?
それらを踏まえ、かかりつけ医は以下のように分析しました。
医師「嘔吐や強い吐き気とともに、ひどい頭痛やめまいがあれば、まず脳内出血などを疑います。また胸・みぞおちの痛みは、心臓の発作などで起こることがある症状です。Aさんは、これらの症状もなく、呼吸も脈拍も血圧も正常ですので、まずは脳や心臓の病気の疑いは晴れたと思います。
また、吐き気を催すようななんらかの薬も服用されていません。胃からの出血も、心配ありません。便通もありますので、腸閉塞もないでしょう。
残るのは胃腸炎で、2月という時期とお子さんの学校でウイルス性胃腸炎が流行している状況から、感染性の胃腸炎が一番強く疑われます。出ている症状もそれと一致しますので、感染性胃腸炎の治療*を開始して、しっかり様子を見ていきましょう」
ひとまず納得した息子さんでしたが、ふと抱いた疑問をかかりつけ医に尋ねてみました。
息子さん「たとえばもし、ひどい頭痛やめまい、胸の痛みがあったとしたら、どうなっていたのでしょうか」
医師「私が電話で状況を伺った時点ですぐに、救急車を呼んでいただくよう指示したと思います」
息子さん「最初から救急車を呼んだほうが良かったのでしょうか」
医師「かかりつけ医がいる場合は、今回のように連絡していただくほうがよいでしょう。ご家族だけでは判断がつかないことのほうが多いです」
感染性胃腸炎の治療*=次の記事を参照してください。食中毒の治療と二次感染の予防
参考:家族がノロウイルスに感染したときの注意点
次回は、なぜ吐き気・嘔吐がおこるのか、そのメカニズムについて見ていきます。
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