嘔気(吐き気)・嘔吐は、胃腸の病気だけでなく、さまざまな病気の症状としてあらわれることがあります。また、車酔いや薬の副作用(とくに抗がん剤)などでも、発症することがあります。高齢者の場合は、嘔気・嘔吐で消耗してしまうことや、誤嚥することも、若い人より可能性が高く、注意が必要です。
嘔気・嘔吐に対する、自宅での適切な対処法について考えます。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
かかりつけ医に電話して支持を仰ぐ
80代の男性Aさんは、2月のある夜、突然強い吐き気で目覚めました。手洗いに立とうと思いましたが、起き上がることができず、寝床に横たわったまま、嘔吐してしまいました。
隣の部屋で寝ていた息子さん夫婦が物音に気付き、急いでAさんの部屋へやってきました。吐いたものはAさんの鼻からも出ていて、とても苦しそうでした。息子さんはすぐに、かかりつけ医の緊急連絡用電話番号に電話をかけました。
息子さん「先生、夜遅くにすみません。父がさきほど急に寝床で嘔吐しました。苦しそうなので、来ていただけないでしょうか」
医師「わかりました。まずAさんの様子を聞かせてください。意識ははっきりしていますか?」
息子さん「意識ははっきりしていますが、吐いたものでむせたようで、ずいぶん苦しそうです」
医師「まずは、吐いたものを誤嚥しないように、顔を横に向けさせてください。口の中に吐ききれないものがあるようなら、ゴム手袋をして掻き出してあげてください」
息子さん「わかりました」
吐き気なのに頭痛や呼吸のことを医師に聞かれた
それから医師は、次のことを息子さんに尋ねました。
・頭痛や、ひどいめまいがありませんか?
・胸・みぞおちあたりに強い痛みを訴えていませんか?
・呼吸が極端にゆっくりになったり、止まったりしませんか?
・最近、かかりつけ医以外で、薬を処方されて服用していますか?
・吐いたものに血は混じっていませんか?
息子さんは、上記のどれも「ありません」と答えました。
医師「夕食を食べてから何時間経っていますか?」
息子さん「およそ6時間です」
医師「ここ一日二日の間に、何か生ものは食べていますか?」
息子さん「生ものは食べていないと思います。おととい、デイサービスに行ってお昼のお弁当を食べていますが、それにも生ものは入っていませんでした」
医師「デイサービスの施設から、Aさんと同様の症状の患者さんが出たという連絡はないですね?」
息子さん「ありません。あ、実はうちの子どもの学校で、ウィルス性の胃腸炎がはやっていると聞いています。子どもは今のところなんともありませんが……」
そのとき、Aさんが、「トイレに行きたいから手を貸してくれ」とお嫁さんに声をかけているのが聞こえてきました。どうやら、Aさんは吐き気だけではなく、お腹の不調も感じているようでした。
息子さんが医師にそのことを告げると、医師は次のように話しました。
「わかりました。Aさんの嘔吐は命にかかわる緊急事態ではないと思います。しかし念のため、これからそちらに伺いますので、私が到着するまでの間、誤嚥しないように、そしてふらついて転倒しないように、よく見守ってあげてください。また、吐いたものや糞便、汚れた衣服などを扱う場合は、できればマスクをかけて手袋をしてください。それとよく手洗いをしてください。
ご本人は、しばらく苦しいでしょうが、体を冷やさないようにして、喉が渇くようでしたら、湯ざましか経口補水液を人肌に温めて少しずつ飲ませてあげてください。無理には飲ませないでくださいね」
息子さんご夫婦は、ほっとして、Aさんに「先生が今から来てくれるから、少し辛抱してね」と伝えました。
次回は、医師とAさんの会話の内容から、医師がどのような病気を疑っていたか「嘔吐が重大な病気のサインの場合とそうでない場合」を解説します。
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