要介護状態にある高齢者が、体の不調を訴えることは日常的にあります。誤解を恐れずに言えば、年を重ねた人の体と病気は「ともだち」。あわてずさわがず、上手に付き合いながら、危険を見極め、できるだけ慣れた住まい、生活の中で対処していく方法を、医療の面から考え、介護者に役立つ情報をお届けする新シリーズです。
さまざまな症状をとりあげ、対処法、症状の出るメカニズム、症状から想定される病気、介護環境の整備などを知ることによって「待てる介護」を目指します。
第1回目のテーマでは、発熱を取り上げます。介護を受けるお年寄りが熱でつらそうな様子になると、介護者としては心配であわててしまいがちです。でも、急いで病院に駆け込むことが本当にお年寄りのためになっているのでしょうか? そのあたりから考えてみたいと思います。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
熱の出始めはあわてて医療機関に行かないで
上條先生が病院に勤めている頃のこと。ある晩、あわてて救急外来に飛び込んできた方がいました。いつも上條先生が外来で見ている患者さんのご家族です。
「うちのおばあちゃんが、かぜをひいて熱を出したんです。どんどん熱が上がってつらそうです。先生、なんとかしてやってください」
ご家族に抱えられ、毛布にくるまれて連れてこられたお年寄りは、高熱にともなう寒気のためにブルブル震えてぐったりしていました。
上條先生は診察が終わって患者さんが帰られる時、ご家族にこう言ったそうです。
「御苦労さまでした。でも、お年寄りがこんなつらい状態のときに、あわてて医療機関に連れてこないほうが良いんですよ」
つらい症状があるのに、医療機関に連れて来ないほうが良い? それはなぜでしょうか。
「発熱してすぐ、熱がどんどん上がっているときは、血液中の免疫細胞(白血球やリンパ球)から炎症性のサイトカインというものが出ています。そのためにだるくてつらいのですが、これは体が自ら安静にするようにしているからです。自宅で体を楽にする応急処置をしながら、病院に連絡して指示を待って下さって大丈夫です。そのほうがおばあちゃんも楽ですよ」
上條先生はご家族に、そう伝えたと言います。
インフルエンザの発熱が疑われたが……
このお年寄りは、インフルエンザが疑われたものの、検査をしても陰性でした。インフルエンザでは特に、発熱初期では検査をしても正確な結果が出ず、診断が下せない場合もあります。上條先生はこのとき、解熱剤だけを処方し、次の日に再度、外来を受診して下さいと伝えたそうです。
発熱の原因は、ウイルスや細菌など、さまざまな場合があります。体は、そのような外から入ってくる異物と戦うために熱を出します。
次回はその発熱のメカニズムについて、詳しく見ていきます。
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