
かぜのとき、薬を飲まないほうが早く治るという話を聞いたことはありませんか? 前回も触れたとおり、かぜの症状は原因ウイルスを体が排除しようとするしくみが働いている証拠なので、薬で完璧に抑え込むことで、ウイルスが出ていきづらくなってしまうのです。けれども、高齢者、とくに介護を受けている方では、激しい症状を放っておくわけにいきません。今回は高齢者がかぜ薬を服用する場合の注意について考えます。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
かぜ薬とはどんな薬?
かぜを引き起こすウイルスを殺せる薬が存在しないため、薬ではかぜを根本的に治すことはできません。では、市販や、医師が処方する「かぜ薬」とはいったい何なのでしょうか。
かぜ薬とは、かぜの諸症状、熱、のどや鼻の炎症、くしゃみや咳、鼻水などを軽減する、対症療法の薬です。それぞれの症状に応じた薬が単独で出されることもありますし、市販や、医師が処方する総合感冒薬といわれるものは、かぜの諸症状を抑えるさまざまな薬効成分を含む、いわば複数の薬を混合したものです。医師の判断によっては、これに二次感染症を治療するための抗生物質が処方されている場合もあります。
何が処方されているかは、お薬手帳や薬の説明文書(薬と一緒に薬局で渡されます)で確認できます。
副作用や飲み合わせに注意が必要
まず注意したいのは、市販のかぜ薬(総合感冒薬や、解熱薬、咳止めなど)を、介護を受けている高齢者には、介護者だけの判断で安易に服用させず、かならず医師の診察を受けてほしいということです。
高齢者では腎臓や肝臓などの代謝機能が弱まっていたり、薬に対する感受性(薬の効き方)が若い人と異なっていたりして、思わぬ副作用が出る場合があります。また、持病がある方では、持病の薬との飲み合わせに十分注意が必要です。
たとえば、咳止め薬では、呼吸を抑制する作用があるため、COPDなど肺の疾患を持っている方では呼吸困難をきたす場合があります。総合感冒薬にも含まれる、くしゃみや鼻水などをとめる抗アレルギー作用のある成分の中には、血液中の神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を阻害するものがあります。このため高齢者が摂取すると、眼圧の上昇(緑内障の悪化)、排尿困難(前立腺肥大症の悪化)、気管内分泌(痰の分泌)の抑制による喘息の悪化などが起こりやすくなります。
また、認知症のある高齢者(70歳以上)で、せん妄などの精神症状を引き起こした例がいくつか報告されており、注意が呼びかけられています。
抗生物質について
よく、かぜ引くと「抗生物質を出してください」と医師に頼む方がいらっしゃるようです。抗生物質は、かぜのウイルスを殺すことはできません。あくまでも、二次的な細菌感染が起きた場合にそれを治療するためのお薬です。抗生物質をむやみに使うことで、耐性菌(MRSAなど)を増やしてしまうなどの理由から、かぜに抗生物質を出すことは今はほとんど行われていません。
ただし、高齢者で肺炎などの感染症になりやすいと判断されている人では、あらかじめ抗生物質を処方されることもあります。
基本的には、鼻水やたんが黄色くならないか、高熱(38度以上)が出るかなど二次感染の兆候に注意をすることが大切になります。
かぜ薬の上手な服用
高齢者はできれば総合感冒薬ではなく、一つ一つの症状を適切に抑える薬を処方してもらうのが、副作用を抑える上でも良いようです。介護する家族などは、普段服用している薬を医師・薬剤師にきちんと伝えたうえで、かぜ薬を服用中は、いつもと変わった様子がないかを観察し、少しでも変化がある場合は医師に伝えるようにします。
前回も書いたとおり、高齢者の場合は廃用症候群を防ぐために、かぜを引いても必要以上に寝込ませないことも必要です。副作用の可能性を踏まえたうえで、「薬で上手に症状を抑えてなるべく普段に近い生活を保つこと」を治療の目標としましょう。
次回は、家族もお年寄りも、かぜを引かない・引かせない「家族ぐるみのかぜ予防」を取り上げます。
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