前回は、糖尿病と認知症の関係を中心に、合併症を防ぐためにも糖尿病の治療に目を向けることが大切であるとお伝えしました。
今回は、いわゆる糖尿病の三大合併症である、糖尿病性腎症・糖尿病網膜症・糖尿病性神経障害について考えていきます。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄 / 文:椎崎亮子、星野美穂>
糖尿病の合併症を防ぐために、定期的な検査を受ける
高齢者、特に介護を受けている方は、糖尿病の合併症が出ていてもなかなか気づかない場合があります。高齢になると自覚症状に気付きにくく、周囲の人に訴えるのが遅くなったり、介護をする家族に迷惑をかけまいと、ご本人が隠しているような場合もあるからです。
もちろん食事療法や薬物療法による血糖コントロールは、合併症を出現させないために何よりも大切です。
それに加えて、加齢による合併症の出現を少しでも遅くするために、尿検査(腎症)、目の検査(網膜症)、足のケア(神経障害や感染症)を定期的に行うことで、合併症になることを防ぎ、発症しても進行を遅らせることができます。
かかりつけ医や介護関係者と、定期的な検査のスケジュールを立てておくとよいと思います。
糖尿病の三大合併症 「糖尿病性腎症」とは?
腎臓は、血液中の老廃物をろ過して尿として排泄する大切な器官です。腎臓を構成する糸球体は、微細な血管がたくさん集まってできていて、ここで血液をろ過しています。
糸球体の細い血管が血液中の糖によってダメージを受け、老廃物がうまくろ過できなくなる現象が、糖尿病性腎症なのです。
糖尿病性腎症のもっとも怖いところは、早期には自覚症状がないということです。腎症がかなり進んではじめて、体がむくむという症状が出ます。ほうっておけば腎症から腎不全へと進行します。
腎不全が進行すると、血液中の老廃物が体にたまる尿毒症が起きますので、腎臓の代わりに血液透析(人工透析)によって老廃物を除去する必要が出てきます。
糖尿病性腎症は、尿中の微量アルブミンを測定することで早期に発見できます。検査の頻度は、血糖コントロールがうまくできている人でも半年~1年に1回ぐらいが適当です。
一度でも尿アルブミン陽性と言われた人では、3ヵ月に1回程度測定して腎臓の状態を常に調べておくことが大切です。
腎症を発症すると、食事療法に低塩分と低たんぱくが加わります。ただし、最近ではたんぱく制限が必ずしも必要ではないという研究結果も出てきています。
患者さん個々の腎症の状態や生活習慣によっても制限の有無は変わってきます。管理栄養士や、糖尿病の専門診療科のある病院では、糖尿病療養指導士による栄養指導が受けられると思いますので、問い合わせをしてみてください。
糖尿病の三大合併症 「糖尿病網膜症」とは?
網膜は、入ってきた光を映像として映し出すための、いわばカメラのフィルムにあたる部分です。たくさんの微細な血管が張り巡らされ、光を感じる細胞に栄養を送っています。
糖によってこの血管が障害されると、出血がおこり、網膜に血液中のタンパクや脂質が沈着し、こぶのようなものを作ります。これが網膜症です。
さらに進むと、障害された血管のほかに新しい血管ができますが(血管新生と呼ばれる)、非常にもろく、さらに多くの出血の原因になります。
この時期には、レーザーで血管新生の起きた部分を焼灼して進行を食い止める治療がありますが、根本的な治療ではなく、あくまでも対症療法です。
さらに進行すれば、眼球の中の硝子体(しょうしたい)という透明な部分に血管新生が起き、眼球が濁って、最悪の場合は失明に至ります。
糖尿病にかかっている人は、網膜症を発症していない場合は年に1回程度、網膜症が少しでも認められる場合は半年~3ヵ月に1回程度は眼科検診を受け、適切な治療によって進行を少しでも食い止めることが必要です。
網膜症のほか、糖尿病患者では白内障や緑内障も進行しやすくなっています。QOLを保つためにも、眼科検診は定期的に受けるようにしましょう。
糖尿病の三大合併症 「糖尿病性神経障害」とは?
血糖値が高い状態が続くと、全身の神経に障害が起き、さまざまな症状が出ます。もっとも多いのが手足の感覚神経の障害、特に足のしびれや痛みです。
高齢者ではさまざまな痛みの疾患を抱えていることも多く、気付きにくいことがあります。また、繰り返す下痢や便秘、排尿困難も、加齢のせいばかりではなく、糖尿病で自律神経が障害されて起きていることがあります。
神経障害が起きていないかは、感覚機能検査や腱反射の検査、神経電動速度検査などを行います。
感覚機能検査のうち、振動覚検査は、音叉を叩いて振動させて足のくるぶしに当て、振動を感じなくなるまでの時間を測定するものです。
腱反射の検査は、アキレス腱をハンマーで軽く叩き、反応が弱まっていないかを見ます。
神経伝道速度検査は、皮膚の上から専用の機械を使って電流を流して末梢神経を刺激し、神経の活動する様子や速度を調べるものです。
「糖尿病性足病変」に注意
神経障害と血管障害が原因で、糖尿病性足病変と呼ばれる足の異常がみられる場合があります。初期には、靴擦れや水虫が治らず悪化します。次第に壊疽(えそ)が起きて組織が崩れ、悪臭を伴う病変になっていきます。
神経が障害されているので、痛みや異変を感じにくく、気が付いたときには潰瘍ができていることもあります。悪化が進めば、足の切断という事態にも至る可能性があります。
足を清潔に保ち、爪を短く切ったり、水虫などを積極的に治療するフットケアが重要です。
介護者も、患者さんの足については、よく観察することが大切です。また医療機関でも定期的に足の状態を確認してもらい、療養指導士や医師に、足のセルフケアの方法を教えてもらうとよいと思います。
プロフィール
上條内科クリニック院長・医学博士 上條武雄先生
1992年慈恵会医科大学卒業後、2003~2007年まで上野原市立病院内科勤務。2007年から横浜市内の在宅療養支援診療所3ヶ所に勤務の後、2011年に上野原市に上條内科クリニックを開業。地域を支える在宅医として、認知症ケア・緩和ケアなどにも力を入れる一方、アニマルセラピーの普及や、医療・介護が連携しやすい仕組みづくりにも取り組む。忙しく飛び回る毎日の癒しは愛犬のチワワたち(花音、鈴音ともに7歳)。自身でアニマルセラピーの効果を感じる日々。
●「高齢者のかかりやすい病気・疾患」の一覧を見る
●「在宅医 ドクター上條に聞く」のコーナーをすべて見る