あてもなく歩き回ったり、道に迷ったりする「徘徊」は認知症で現れる代表的な症状のひとつ。
目隠しのまま知らない場所に連れて行かれ、一人きりにされれば、健常者でも戸惑い、うろたえるはずです。徘徊する患者さんは、いつもそのような状態に置かれていると考えてください。だから、自分の居場所を求めて、さ迷い歩くのです。慣れないところばかりでなく、行きつけの場所や散歩の途中で迷子になることも珍しくありません。
胸に輝く私の名札
迷子を防ぐには、他のことに関心が向くように声をかけて外出を思い止まらせることです。
鍵をかけて外に出られないようにする方法もありますが、無理に閉じ込めるのは逆効果。
時間を決めて一緒に散歩をするとよいでしょう。名前と住所、連絡先を書いた名札を衣服に縫い付けておくと、迷子になったときに助かります。患者さんが外に出ようとしたとき、感情的になって「出ちゃだめ!」「早く入って!」と頭ごなしに叱るのはNGです。
「一緒に探そうね」の心構え
「徘徊」と並んで認知症の患者さんに多くみられるのは、財布や通帳などが盗まれたと騒ぎ立てる「物盗られ妄想」です。
原因のほとんどは本人のしまい忘れや勘違いですが、熱心に介護している人ほど疑われるのでやり切れません。しかし、たとえ疑われたとしても、興奮して言い返すのは禁物。むしろ「一緒に探そうね」という態度を示すことが大切です。ありかの見当がつくときは、うまく誘導して本人に見つけさせるようにしましょう。
まずは言い分に耳を傾けて
この症状が厄介なのは学習効果が薄いこと。たとえ見つかっても、自分でなくしたという記憶がないので「誰かが盗った」という妄想がふくらむのです。ですから、いくら言葉で言っても効きません。
大切なのは患者さんの訴えを否定したり、訂正したりしないこと。まずは本人の言い分に耳を傾けましょう。「私が盗るわけないでしょ!」「自分で隠したんでしょ?」「しまい忘れたんじゃないの?」といった種類の言葉を使うのはタブーです。
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