前回、うつ病の治療の柱は、
①環境の調整(ストレスとなっている原因を極力取り除く)
②薬物療法(処方された薬をきちんと服用する)
③精神療法(認知療法、行動療法など、心や体を専門家の指導に従って働かせる)
であると書きました。
今回は①にあたる、家庭で家族がかかわって行う、うつ病を改善する環境の整え方について考えてみます。
<監修:上條内科クリニック 院長・医学博士 上條武雄/文:椎崎亮子>
うつ病患者の心を知って寄り添う
環境の調整とは、ストレスとなっている原因を極力取り除くことですが、生活環境、つまり、その人を取り巻くすべてのことがらからストレス源を完全に取り除くことは難しいのが現実です。病気や転居、親しい人の死など本人が直面している事実は、どうすることもできません。他者が解決しようとすることはもちろん、本人に「頑張って」「考えすぎないで」などと助言するのも、時に逆効果になる場合があります。「うつ病の患者を励ましてはいけない」と言われるゆえんです。
高齢のうつ病患者がどのような苦しさ、辛さを抱えているのか、どのような考え方をしがちなのかを知っておくことで、寄り添うという姿勢を持つことが大切だといわれています。
高齢者のうつ病の特徴や、おかれる状況、心の特徴などを別表に整理しました。家族など、患者の身近な人が接するとき、表の内容を踏まえて、役立つことを考えます。
うつ病患者と向き合う時に役立つこと
うつ病患者と向き合う時、「気分をひきたてよう」「悩みを解決しよう」と思いがちですが、まずは、「孤独にしない」「かかわりを徐々に増やす」「本人の望む介助を行う」ことを心がけるとよいといいます。人とかかわることを避けようとする高齢者もいます。また、妄想などが出て、付き合い方の難しくなる方もいるでしょう。
ケアマネジャーなど介護の専門家、かかりつけ医、精神科医などと相談しながら、家族がかかわる範囲を考えていくのがよいようです。
朝日を浴びることの意味
下の表中の「朝決まった時間に起こす。起きなくても、部屋に太陽光が入るようにカーテンを開ける」ですが、うつ病患者において、朝日(あるいは、明るい光)を決まった時間に浴びることで、脳内の既日リズムを調整する働きを助ける「光学療法」の研究が進んでいます。夜、眠気をつかさどるホルモンであるメラトニンが脳内に放出されますが、朝日を浴びることで、夜のメラトニン放出量が増え、またストレスホルモンが減って、正常な眠りに入れるというものです。これまで、冬の日照時間の少ない国・地方で多い「季節性うつ病」の治療として行われてきましたが、既日リズムの調整機能が衰えた高齢者のうつ病でも、効果が期待されています。

看護・介護する家族が気を付けること
看護・介護を行う家族は、肉体的・精神的な負担が大きいですが、特にうつ病の患者と向き合う場合、患者のつらい気持ちに日々接しているうちに、家族自身も影響を受けることもあります。精神科等の医師や看護師などに話を聞いてもらうようにするよう心がけます。必要に応じて積極的に受診することも考えてよいと思います。
また、出来る限り、一人で悩みを抱え込まないよう、複数の人がかかわるようにすることも大切です。治療にかかわることは医療者に、介護にかかわることは介護の専門家にバトンタッチする、という考え方をすることで、負担を和らげていきましょう。
<参考>
Utsu.jp うつ病と不安の病気の情報サイト
●「高齢者のかかりやすい病気・疾患」の一覧を見る
●「在宅医 ドクター上條に聞く」のコーナーをすべて見る